果しなき欲望
2005/3/7
1958年,日本,100分
- 監督
- 今村昌平
- 原作
- 藤原審爾
- 脚本
- 鈴木敏郎
- 今村昌平
- 撮影
- 姫田真佐久
- 音楽
- 黛敏郎
- 出演
- 長門裕之
- 中原早苗
- 殿山泰司
- 西村晃
- 渡辺美佐子
- 小沢昭一
- 加藤武
- 菅井一郎
とある駅に、星型のバッチをつけて集まった4人の男、男たちは戦中に陸軍病院で橋本中尉がドラム缶に入れて埋めたというモルヒネを10年たったら掘り出して山分けするという約束をしていたのだ。しかし、橋本中尉と従卒3人というはずが、4人が集まり、さらに橋本中尉の妹だという女が現れる。誰が余計なものなのか、女が本当に中尉の妹なのか、という疑問はとりあえず置いておき、いまは商店街の一角になっているという防空壕のあった場所に行ってみると…
今村昌平の監督デビュー作、殿山泰司、西村晃、小沢昭一といった名脇役たちがこぞって主役格で登場しているのがとても面白い。
この映画のキャスト順などを観ると、長門裕之が主役で中原早苗がヒロインという映画なのかと思うが、どっこいこの映画の主役は殿山泰司、西村晃、小沢昭一、渡辺美佐子、加藤武、という名脇役といわれる人たちなのである。長門裕之と中原早苗という看板を出したのは、スター映画の時代、特に日活では、看板となるスターが客を集めるという時代だったからだろう。しかもこの作品は新人監督のデビュー作、渋好みの殿山泰司主演ではなく、『太陽の季節』などで人気を得ていた長門裕之を主役に据えようというのは会社の方針としては仕方のないところだろう。
しかし、映画を見ればこの長門裕之と中原早苗は添え物に過ぎないのがわかる。そもそも長門裕之が家を借りる条件として雇うことを無理強いされるボンボンで、はじめから添え物として存在しているのだ。それでも、もうひとりの中原早苗は件の防空壕の上に立つ肉屋の娘だから、どこかでプロットに関わってくるのだろうと予想されるわけだが、映画を最後まで見てみると、結局いなくてもよかったような気もする程度の存在なのだ。
そんな看板を掲げられながら、それを使わずに渋い役者で映画を撮ってしまうという今村昌平はさすがに凄いと思う。もちろん、彼らの実力は折り紙つきで、映画がいい映画になることは間違いないのだろうけれど、ヒットするかどうかは別の問題だし。
そして、そんな名脇役たちの中で光るのが渡辺美佐子だ。現在も活躍中の女優だが、もう70代。新劇出身で、50年代から日活を中心に脇役として活躍、代表作といえるのは裕次郎の『風速40米』や中原康の『四季の愛欲』、この『果しなき欲望』でブルーリボン賞を受賞、最近では『顔』『アカシアの道』『さよなら、クロ』などに出演している。
この作品で演じる志麻という役では着物をぴっと着た妖艶な姿と、土まみれで穴掘りをする姿との対照がグッと来る感じ。どちらの姿も魅力的だが、怪しげでもある。
この映画の中心となるのは殿山泰司演じる大沼で、プロットの中心でもあり、人柄もいいので、観客は自然とこの大沼に同一化して映画を見るように出来ているのだが、その目から見るとこの志麻の妖艶さと怪しさが非常に印象的なのだ。
その意味では、それ以外のキャラクターの使い分けも非常にうまい。仲間となったそれぞれが、非常にいいキャラクターを出し、観ている観客をいらだたせたり、安心させたり、疑惑を持たせたりする。特に加藤武演じる山本というのは観客をいらだたせるキャラクターとして非常に効果的である。
プラス西村晃と小沢昭一、この強烈なキャラクターの共演で、物語はぐんぐん進み、まったく飽きることなくラストまで突き進むことが出来る。ある意味では群像劇のような映画でこれだけの展開力をもっている映画というのは珍しいのではないだろうか。特にスターを中心に回っていたこの時代にあって、寄せ集めとも映る脇役たちの集合がこれだけ面白い映画を作る。やはり、スター、スターといわれていたこの時代の映画も、しっかりとした脇役たちの演技に支えられていたのだと、彼らが本格的に活躍する映画を見て改めて思う。