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トニー滝谷

2005/3/17
2004年,日本,75分

監督
市川準
原作
村上春樹
脚本
市川準
撮影
広川泰士
音楽
坂本龍一
出演
イッセー尾形
宮沢りえ
篠原孝文
四方堂亘
谷田川さほ
小山田サユリ
西島秀俊(声)
preview
 トニー滝谷の名前は、本当にトニー滝谷だった。太平洋戦争当時、上海でトロンボーンを吹いていた父親の省三郎は終戦後日本に帰って結婚し、子供を生むが、妻は3日後に死に、省三郎は息子にトニーと名付ける。省三郎は演奏旅行の日々で、トニーは少年時代を孤独にすごし、絵を描くことだけが得意だった…
 村上春樹の同名短編小説を市川準の脚本・監督で映画化。主演のイッセー尾形と宮沢りえのさりげない演技が物語世界に溶け込んで、まさに小説を呼んでいるかのような感覚。
review

 タイトルが出るまでの10分あまりはトニーの生い立ちを物語る場面で、ほとんどセリフはなく、ナレーションが小説を朗読するかのように物語を語っていく。タイトルが出たあとは物語はリアルタイムに進んでいくのだが、それでもセリフが非常に少ないという点は変わらず、映画を物語る中心はナレーションであるということになる。たまに登場人物自身がそのナレーションを肩代わりし、語ることがあるほかは、特に工夫もなく、それはまさに村上春樹の小説を読んでいるような感覚だ。
 村上春樹の小説のぼんやりとした感じを映画という形で再現するのは非常に難しいはずだ。村上春樹の小説の物語の部分を取り出してみても、それはその小説を全くあらわさない。村上春樹が村上春樹であるのは、その物語によってではなく、空気感とでもいうべき細部にあるのだ。だから、小説を映画にするときに物語だけを取り出しても村上春樹の特性を生かすことにはならない。村上春樹らしさを映画に彫りこむにはその空気感を映像で表現しなければならないということになる。
 この映画はナレーションを映画の中心に据えることで、その空気感を言葉のままで映画に入れ込んだ。だから村上春樹の空気感というものは問題なく映画に移植されたのだけれど、しかし果たしてこれは「映画化」なのだろうか? 映画化というよりは映像化、小説の朗読に挿絵のように映像を付け加えただけなのではないかという疑問が生じる。
 村上春樹の小説がこれだけ人気を博しているにもかかわらずほとんど映画かされないのは、その映画化の困難さに由来している。この映画もその困難さに直面し、映画として新たな物語をつむぐことをやめ、小説をそのまま生かした映像として提示した。ことさらに映画としてのオリジナリティを求めてしまうと村上春樹の空気感をぶち壊しにしてしまうからだ。

 だから、この映画はこのように作られるしかなかったし、キャスティングもこれでよかったのだと思う。特に宮沢りえの透明感はこの物語の世界観に見事にはまり込む。イッセー尾形がトニーと省三郎の二役をやるというのも、宮沢りえが二役をやるというのも、その空気感を表現するためになるべく登場する役者を絞りたかったからだろう。
 しかし、イッセー尾形の省三郎の演技は少々クセが強く、この物語の中で違和感を与えるし、宮沢りえが二役をやるというのも顔が似ているという設定ではないので、少し疑問を感じる。
 そのあたりの感覚が微妙だというのがこの映画の、村上春樹の作品の映画の難しさを象徴している。この映画はそれをかなり高レベルでクリアしているけれど、映画的な工夫を凝らそうとしている部分にはやや難がある。人気がある作家だけに観客のそれぞれがその世界に対してある種のイメージをすでに抱いており、それが映画と一致することはなかなか難しいだろう。だからやはり、どこまで行っても村上春樹の作品を映画にするのは難しい。この映画はかなり健闘していると思うが。

Database参照
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国別・年順: 日本90年代以降

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