となりのトトロ
2005/3/27
1988年,日本,88分
- 監督
- 宮崎駿
- 原作
- 宮崎駿
- 脚本
- 宮崎駿
- 撮影
- 白井久男
- スタジオコスモス
- 音楽
- 久石譲
- 出演
- 日高のり子
- 坂本千夏
- 糸井重里
- 北林谷栄
- 島本須美
- 高木均
- 雨笠利幸
昭和30年頃、東京近郊の田舎の一軒家に引っ越してきたサツキとめいとお父さんの3人の一家、お母さんは入院中だが、となりには親切なおばあさんがいて、いろいろと世話をしてくれる。そして、3人がようやく落ち着いた頃、研究者のお父さんが書斎で仕事をしている脇で遊んでいためいが、不思議な生き物を見つける…
宮崎駿の作品の中でも屈指の名作といわれる長編アニメ、トトロというキャラクターはいかにも子供向けで、実際に子供に大受けなわけだが、しかし大人が見ても普通に楽しめる作品。
どうもトトロというのは見た目がぬいぐるみっぽいし、女子供に受けるキャラクターという感じで、いわゆる大人の観客には訴えにくいものがある。そして、映画の作りも基本的に子供向け、宮崎アニメは大人も楽しめるとは言っても、やはりあくまで大人「も」であって、大人「が」ではないから、元来は子供向けなのだ。そのような意味では、この作品は基本的なコンセプトに非常に忠実だといえるのかもしれない。子供向けに作られた夢あふれるアニメが、大人にも受け入れられる。それこそが本当の宮崎アニメであって、大人が見た方がその世界感がよりよく理解できるとか、そういうことは本来的な性質ではないということだ。
だから、この映画は徹頭徹尾、子供の視線から描かれている。基本的にはサツキの視点であり、そこにめいの視点が織り込まれていく。だからトトロはあんなにもあっさりと登場し、何でも出来てしまうのだ。大人の視点から描くなら、そのトトロが実在するというところに様々な理由付けが必要になってくる。子供の世界なら、そんな生き物が存在することは当然だし(あるいは昔は当然だった。今なら、サツキの年でトトロの存在をあんなに素直に信じるというのは真実味が薄い)、存在したほうが子供の世界観にはしっくり来るはずだ。
だからこの映画は子供向けの御伽噺として、非常に優れた作品になる。子供の夢の世界をスクリーンの上に実現する。それはまさにアニメの王道だ。
しかし、それでも大人向けに様々な仕掛けもなされている。まず、この時代と場所の設定が昭和30年代、結構田舎(所沢らしい)というノスタルジーを誘う時代/場所に設定されているということ。この映画が作られた当時だと、40歳前後の人がノスタルジーを感じる子供時代の想い出が映画の舞台となっているわけだ。田植え休み、本家に電話を借りて行く、自転車の三角乗り、様々なことがオトナのノスタルジーをかきたてる。それはもちろん実際の自分自身の子供時代ではなく、想像する輝ける子供時代のイメージであるのだ。
そしてもうひとつ、この映画は物語が非常にわかりやすく出来ている。それは家族愛を中心とした感動もの、いわゆるハンカチものの基本的な構造を踏襲していて、誰もが見て素直に感動できるのだ。その内容を詳しく書いても仕方がないので書かないが、子供たちの姿や人々の温かみについつい引き込まれて、感動してしまう、そのような構造が非常にスマートに組み込まれている。
さらにもうひとつポイントとなるのは、トトロの存在の仕方が理にかなっているという点である。基本的にトトロは子供たちにしか見えず、オトナには見えないわけで、それは子供たちの幻想に過ぎないと考えることも出来るわけだが、そう考えたとしてもこの物語は基本的にはつじつまが合う。ほとんどの部分はめいやサツキが見た夢として片付けても問題はないようになっているのだ。終盤のめいが行方不明になる辺りは夢として片付けるのは少し無理があるようにも見えるが、これは実は彼女たちが体験したある種奇跡的な体験の彼女たちなりの解釈であると考えることが出来る。