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クジラの島の少女

2005/4/16
Whale Rider
2002年,ニュージーランド=ドイツ,102分

監督
ニキ・カーロ
原作
ウィティ・イヒマエラ
脚本
ニキ・カーロ
撮影
レオン・ナービ
音楽
リサ・ジェラード
出演
ケイシャ・キャッスル=ヒューズ
ラウィリ・パラテーン
ヴィッキー・ホートン
クリフ・カーティス
preview
 ニュージーランドのマオリの村、その族長の家系のポロランギは双子を授かるが、男の子と母親は出産時に命を落としてしまう。ひとり生き残った女の子パイケアは跡継ぎとしての長男を求めていた祖父の落胆に気づきながら、誇りを持って育って行くが…
 マオリ族出身のウィティ・イヒマエラの原作をニュージーランドの女性監督ニキ・カーロが映画化。マオリの伝統と現代社会との衝突から生じる人々の苦悩を描いたヒューマンドラマ。ケイシャ・キャッスル=ヒューズがアカデミー主演女優賞にノミネートされ話題となった。
review

 これは典型的な、伝統と現代の衝突の物語である。いわゆる長子相続で族長の地位を守り続けたマオリ族のひとつの村、そこに男のこの跡取りがいなくなり、その伝統が危機にさらされる。伝統が完全にそのまま残っているならば、それはそれで決まった対処法というものがあるのだろうし、おそらくそれは村の長男を集めてその中から指導者を探し出すというものだったはずだ。
 しかし、問題は彼らを取り巻く社会のほうが変化し、そのような伝統的な方法に何か違和感が感じられるようになってしまったということだ。それは別に、フェミニズムの問題とかいうことではなく、感覚の問題だ。いくら伝統を守る社会といえども、一歩村の外に出れば外の社会と交流せざるを得ず、そこには村とはまったく異なる価値観が存在している。その価値観に触れた人々が村の伝統を無批判に受け入れることは難しい。跡取りが長男でなければならないという伝統を理解は出来るが、内心ではどこか違和感がある。そのようなもやもやした空気が熟したときにこのような物語が生まれるのだ。
 この少女パイケアの物語は、このように語られる時点ですでに伝説なのである。それは海からやってきたパイケアの物語と同レベルにある。このようにして少女パイケアのことが語られることで新たな伝統が創造される。
 この物語自体は創作だと思うが、このような物語によって新たな伝統が創られるというのはどこにでも見られる出来事だ。おそらくこの村では、パイケアの子供の中で男女を問わずもっとも資質に恵まれたものが族長を継いで行くか、あるいはパイケアの息子からまた長子相続にもどり、村に危機が訪れたときには女性の指導者が現れるという伝説が残るか、になって行くのではないだろうか。
 そのようにして伝統は社会の変化に対応して行く。伝統とは決して変わらないものではなく、変わらず存在するものであると信じられる物語なのである。
 つまり、この映画は実は伝統を守ることに成功したという物語なのである。客観的に見ると、伝統は変化してしまったようにも見えるわけだが、実は伝統とは常に変化し続けるものなのであり、だからこのように変化することこそが伝統が守られたということなのだ。

 この映画はそのような伝統の創造という物語を少女の視点から語ることで非常に映画的なものにしている。難しいことを言うのではなく、伝統の主体たる少女の立場に観客を引き込むことによって、それを感じさせる、その描き方が非常に面白い。伝統を守ろうとする立場でも、伝統に違和感を感じている立場でもなく、自ら伝統の中心にいようとする立場、その立場から伝統というものを眺めることによって、伝統というものの実は柔軟なあり方が見えてくるのだ。
 まあ、少し映画としては退屈という気もしないではないが、そのようなことを考えつつ、マオリ族の伝統的な文化や海を泳ぐクジラの雄大な姿などを眺めていると、なんだか癒される。そんな映画だ。

Database参照
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国別・年順: ニュージーランド

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