ビッグ・フィッシュ
2005/4/26
Big Fish
2003年,アメリカ,125分
- 監督
- ティム・バートン
- 原作
- ダニエル・ウォレス
- 脚本
- ジョン・オーガスト
- 撮影
- フィリップ・ルースロ
- 音楽
- ダニー・エルフマン
- 出演
- ユアン・マクレガー
- アルバート・フィニー
- ビリー・クラダップ
- ジェシカ・ラング
- ヘレナ・ボナム・カーター
- マリオン・コティヤール
- マシュー・マッグローリー
- スティーヴ・ブシェミ
- ダニー・デヴィート
- ダニエル・ウォレス
ウィル・ブルームは子供の頃からほら話ばかりする父のことをあまり好きではなく、自分の結婚式でもいつものほら話をした父に怒ってその後3年口をきかずにいた。しかし、ある日、母から父の病状が悪化したという知らせを受け、ウィルは妻を連れて実家に戻った。ウィルは父が死ぬ前に本当の父のことを知っておきたいと考えていた…
ファンタジーの名手ティム・バートンが嘘とも真ともつかないほら話を美しい映像で表現、そのファンタジーを介して深まる人間関係が感動を誘う。
なんとも印象の残るシーンの多い映画だろうか。私は基本的に映画をプロットで見て行くことが多く、プロットが面白ければ映画に引き込まれ、映像は断片として記憶にとどまる。もちろん印象的なシーンというのはあって、その映像自体が頭に刻まれるということも多いわけだけれど、それはあくまでもプロットが信仰して行く上で印象に残るシーンである場合が多い。
しかし、この作品の場合、はっきり言ってプロットはあってないようなものだ。父親のほら話に辟易した息子が、父が死ぬ前に父の本当の姿を知って父と和解したいというただそれだけの話。あるいは、ほら話によって構成される父の人生のほうが主プロットなのかもしれないが、それにしてもたいしたプロットではない。たいしたプロットではなくても、この映画は面白い。それはこの映画の断片のそれぞれが魅力的なシーンを持っているからだ。どのシーンが心に残るかは見る人によるだろう。しかし、このような断片を積み重ねた映画では、何かひとつでも心の琴線に触れれば、その出会いは幸せなものになる。
私にもそんな幸せな出会いがあり、この映画が好きになった。すごく面白いとはいえないが、記憶に残る映画だ。
私が気に入ったのは、スペクターの一連のシーンだ。最初の訪問のときのスペクターの奇跡のような外観、たくさんの靴が洗濯紐にぶら下がり、光にあふれた緑の町。しかし、その町はあまりに小さく、すぐに暗い森が迫っている。その周囲と隔絶した感じがその町をパラダイスのように見せる。しかし、2度目の訪問のとき、町はすっかり茶色に染まり、周囲との境目がなくなってしまっている。光もなく、緑もなく、人々もいない。それはまるで夢と現実の境がなくなり、すべてが荒廃した現実に多い尽くされてしまったかのような景色だ。木の上に車が引っかかるという奇跡のような光景も、町の廃墟としての外観に小さなアクセントを加えるに過ぎない。
このスペクターとは彼エドワードにとっていったいなんだったのかと考えてみる。それは彼にとって出発点であると同時に最終的に戻るべき天国、永遠に輝き続ける光の都、夢がうまれ出る場所。スペクターが荒廃した理由は近くに道が出来たこと(つまり、周囲との隔絶が失われてしまったこと)だと説明される。確かにそれが理由ではあるのだろうが、エドワードにとってはそうではなかったのではないか。彼はスペクターを出て行くとき、「ここを出て行く最初の人間だ」ということを言われ、テキサスでノザーに出会って、自分のあとには他にも出て行った人がいたことを知った。つまり、彼がスペクターを後にした時点でスペクターでは変化が始まっていたということに、彼にとってはなる。だから彼はスペクターを回復させ、元通りに夢の生まれる場所にしたかったのだ。
そして最後にその夢の場所に人々は集まる。彼エドワードはビッグ・フィッシュだったわけだが、そのビッグ・フィッシュの住処はスペクターだった。彼は現実の世界とは妻のサンドラによってつながっていたけれど、夢の世界とはスペクターによってつながっていた。スペクターを理解しなければ、彼を理解することは出来ない。ウィルが父を理解できなかったのは彼がスペクターを理解できなかったからだ。生きる拠り所となるべき夢の場所、ウィルはそのような場所を持たず、エドワードのその場所は大きすぎた。
サンドラはスペクターを理解していた。だから服のまま浴槽に潜っているエドワードを見てそっと微笑み、自分もその浴槽に身を横たえたのだ。ウィルの妻ジョセフィーンも理解した。だから彼女は「ウィルを連れて」彼の実家に帰った。そして、ウィルも最後には理解した。だから彼の前にもビッグ・フィッシュが現れたのだ。
ティム・バートンはここのところ『猿の惑星』『スリーピー・ホロウ』『マーズ・アタック!』などSF色の強い作品が多く、クセの強さが目立っていたが、この作品で『ビートルジュース』や『シザーハンズ』の頃の柔らかさとファンタジーの描き方のうまさが戻ってきたのではないか。次回作は『シザーハンズ』と同じくジョニー・デップ主演のファンタジー『チャーリーとチョコレート工場』。原作は子供の頃に読んだ人も多いはずの「チョコレート工場の秘密」。かなりファンタジー色が強い印象だが、それくらいのほうが今のティム・バートンには期待が持てる気がする。