ドーン・オブ・ザ・デッド
2005/4/28
Dawn of the Dead
2004年,アメリカ,98分
- 監督
- ザック・スナイダー
- 原案
- ジョージ・A・ロメロ
- 脚本
- ジェームズ・ガン
- 撮影
- マシュー・F・レオネッティ
- 音楽
- タイラー・ベイツ
- 出演
- サラ・ポーリー
- ヴィング・レームズ
- ジェイク・ウェバー
- メキー・ファイファー
- タキ・バーレル
- マイケル・ケリー
- リンディ・ブース
看護婦のアナは仕事を終えて帰宅、夫のルイスと床につく。翌朝、隣家に住む少女ヴィヴィアンがやってきたのにルイスが気づく。ルイスが声をかけるとヴィヴィアンはルイスを襲い、首から血を流して死んだルイスも息を吹き返すとアナに襲い掛かる。何とか外に逃げ出したアナが目にしたのはまさに地獄のような光景だった…
ホラー映画の名作『ゾンビ』をこれが初監督作となるザック・スナイダーがリメイク、主演はオリジナルのファンということで久々のハリウッド映画出演を果たしたサラ・ポーリー。ホラー嫌いにはきついと思うが、勢いがあって楽しめる。
この映画のよさはまず余計な前置きがないということだ。普通のホラー映画だと、ゾンビとか殺人鬼とかそういったものが出現するまでにいろいろと前置きがあって、観客が心の準備をした頃に肝心の恐怖が出現する。しかし、この映画の場合は日常のエピソードはほんの数分で、タイトルロールを待たずにもうゾンビが出現する。
このテンポのよさがこの映画の最大の魅力で、これ以後も徹底的にスピードで観客を引っ張って行く。よく考えると、主人公となる生き残りの人間たちの行動はおかしいし、辻褄が合わないところも多いのだが、ホラー映画とは考えるものではなく感じるものであり、この映画は観客に考えさせる暇を与えず、とにかく恐怖を感じさせる。
観客はあっという間にサラ・ポーリー演じるアナを中心とする主人公たちに同一化し、モールで彼らに銃を向けたCJらに不信感を覚え、ケネスの傷は噛まれたものではないかと疑う(噛まれた傷から感染するということに彼らが気づくのが、あまりに遅すぎるのは苦笑してしまうが)。ゾンビに囲まれているにもかかわらず、いつもと変わらず休日であるかのようにモールで思い思いに過ごす彼らを見ながら、それが不安を少しでもかき消すためであると感じる。
そして、後半にはそのスピード感はさらにアップし、理不尽さもさらにアップする。しかし、この理不尽さというのは必ずしも映画の弱点とばかりもいえない。CJやタッカーやニコールやスティーヴの理不尽さというのはそのまま人間という生き物の理不尽さでもある。人間というのは、自分の感情に距離を置いて眺めてみればまったく理不尽であるような行動を時にとってしまうものだ。この映画に満ちる理不尽さというのは映画の理不尽さというよりは人間の本質的な理不尽さである。
この作品はゾンビがなぜ出現したかということにはまったく触れない。映画の序盤ではキリスト教的な終末論が語られるが、映画が進むに連れそれも影を潜め、それが単なるモーションに過ぎないことが明らかになる。この作品においてゾンビとは人間の犯した罪の因果応報とかいうものではけっしてない。
私が思うにそれが象徴しているのは理由のない恐怖なのではないか。突然何者かに襲われるという恐怖、漠然とした罪の意識に対する漠然とした罰の恐怖、それが物体となって表れたものがゾンビなのではないかと思う。そして、その根底にあるのは他者に対する恐怖、そして親しい人までもが突然他者に変わってしまう恐怖だろう。これはある意味では非常にアメリカ的な恐怖であるともいえる。果てしなく他者を恐れるアメリカ、他者を恐れるあまりアメリカは仲間を見捨てる。それは『28日後』でも『バイオハザード』でも繰り返されてきたホラーの構図であり、恐怖の再生産構造である。
アメリカを嫌うあまりカナダに移住し、ハリウッド映画と決別していたサラ・ポーリーはこの作品にそのようなアメリカを見出したからこの作品に出演したのではないか。12歳のとき湾岸戦争に反対してディズニーのブラックリストに載り、デモで警官と衝突し、奥歯を2本折った彼女が、ハリウッド映画に出演するからには何らかの理由があると考えるのが当然である。
極端に言ってしまえば、このゾンビが象徴しているのはネイティヴ・アメリカンを虐殺したというアメリカ人の罪悪感である。死者である彼らがいつかゾンビとして蘇り、彼らに襲い掛かる。そんなことを本気で信じているわけではないだろうが、そのような潜在的な恐怖がアメリカ人に他者を恐れさせ、ゾンビという伝説を生む。そして、アメリカ人はそのゾンビを殺すということしか出来ない。さらには彼らの出現をウィルスのせいにして、自分の罪を問おうとしない。だから恐怖の源泉はなくならず、彼らはひたすら恐れ続けるのだ、隣人がゾンビになる日を。