恋の門
2005/5/7
2004年,日本,114分
- 監督
- 松尾スズキ
- 原作
- 羽生生純
- 脚本
- 松尾スズキ
- 撮影
- 福本淳
- 音楽
- 葉山たけし
- 出演
- 松田龍平
- 酒井若菜
- 松尾スズキ
- 小島聖
- 忌野清志郎
- 塚本晋也
- 尾美としのり
- 皆川猿時
- 大竹しのぶ
- 平泉成
- 大竹まこと
- 田辺誠一
- 片桐はいり
- 村杉蝉之介
石で漫画を描く自称“漫画芸術家”の蒼木門は道に迷い、怪我をしてバイトに遅刻。しかしそのバイト先に道に迷っている途中に出会った証恋乃がいた。門はバイトの歓迎会で切れるが恋乃がその門を介抱し、家に連れて帰る。翌朝、目を覚ました門は変な格好をさせられており、恋乃がコスプレイヤーであることを知る…
羽生生純の同名コミックを大人計画を主催する鬼才松尾スズキが脚本を書き、初めて自らメガホンをとった作品。全編B級感が溢れ一般受けは難しい感じだが、ギャグのセンスはさすが。
映画全体としての狙いがうまくいっているとは必ずしもいえないが、笑えるギャグはそこかしこにある。全体にずっと繰り返されるあるひとつのギャグは門が気持ちをすぐ表情に出してしまうということで、そこから様々なくすぐりが派生して、それはかなり面白い。松尾スズキも酒井若菜もそこを突っ込み笑いを誘う。
全体としては完全なB級ギャグ映画という感じで、CGなんかも使いながら、いかにも漫画然とした過剰な表現で笑いを誘おうとしているわけだけれど、これが今ひとつ成功していない。今も大人計画の座長として舞台の演出に活躍しているだけあって、どうしても舞台的な感覚が映画にも入り込んでくるわけだが、この映画の過剰さも大人計画の舞台の過剰さとつながっているように思える。舞台では過剰さが笑いにつながり安いのだと思うが、映画ではすでにそのような過剰さ自体が飽和状態になってしまっていて、なかなかストレートに笑いには結びつかないのではないかと思う。
そもそも門が作る“石の漫画”が過剰さそのものであり、この映画は基本的に全てが過剰に出来ているわけだ。過剰さが力を持つにはそれは観客を圧倒するほどの力でなければならない。しかし、それが成功しているのは僅かな箇所、クライマックスで画面が3分割され3人がそろって「気持ちいいー!」といいながら恍惚の表情を浮かべるところなどだけである。つまり大部分の過剰さは笑えない(たとえば大竹しのぶのメーテル)わけで、その意味ではこの映画は決定的に失敗作ということになってしまう。
しかし、逆にその過剰さがなりを潜めたとき、ボソリとつぶやかれたセリフに笑いがにじみ出ることは多い。その部分を楽しめるなら、B級好きではなくとも、この映画を楽しめるということになる。
そのような松尾スズキの濃いテイスト以外でこの映画で白眉なのは酒井若菜ではないかと思う。酒井若菜に女優という印象はなかったが、この映画ではかなりいい。演技がうまいとかそういうことではなく、素朴さとオタクっぽさを見事に体現し、表情の切り替えにメリハリがある。ギャップを生むことが出来るということと展開の速さについていけるというのはコメディエンヌとして重要な素質だ。
松尾スズキは宮藤官九郎脚本のテレビドラマ『マンハッタン・ラブストーリー』で酒井若菜と共演しているから、そこで彼女のコメディエンヌとしての素質を見出したのかもしれない。そういえば、大竹しのぶも以前、深夜で放送された松尾スズキ演出のドラマに出演して、コメディエンヌとしての素質を発揮し、この作品でも地味ながらグロテスクとも言える笑いに寄与している。
松尾スズキは女優のコメディエンヌとしての素質を見出すのがうまいのかもしれない。これから宮藤官九郎に負けず劣らず映画にも進出してくるだろうが、次々と新たな女優をコメディエンヌとしてその俎上に上げて欲しいと思う。