モーヴァン
2005/5/17
Morvern Callar
2002年,イギリス,97分
- 監督
- リン・ラムジー
- 原作
- アラン・ウォーナー
- 脚本
- リン・ラムジー
- リアナ・ドニーニ
- 撮影
- アルウィン・H・カックラー
- 音楽
- ステレオラボ
- 出演
- サマンサ・モートン
- キャスリーン・マクダーモット
- レイフ・パトリック・バーチェル
- ダン・ケイダン
- キャロリン・コールダー
恋人の自殺した死体に寄り添うように横たわるモーヴァンはパソコンに自分宛の手紙が残っているのを見つける。そこには小説を出版社に送ってくれというメッセージが残されていた。モーヴァンは死体をそこに残したまま親友のララと遊びに出かける。翌朝帰ってきたモーヴァンは小説の著者の名前を自分のものに代え、出版社に送る…
リン・ラムジーの監督第2作。荒涼としたスコットランドの風景と主人公の無表情さ、そしてイヤホンから流れる音楽が不協和音を奏でるよう。
自殺した恋人の原稿を名前を騙って出版社に送る。それ自体は驚くほどのことではない。問題なのは、その恋人(顔も映らない)がモーヴァンにとってどのような存在なのかということだ。自殺した死体に寄り添って横たわり、その死体をそこに置いたまま遊びにでる。それは死体をもてあましているのか、それとも、恋人が死んだ事実を受け入れることが出来ないのか。
恋人が残したカセットテープをかけ、イヤホンを耳に挿し、外の音をシャットアウトする。音楽を聴いているシーンの様子からすると、必ずしもそのテープ自体を気に入っているというわけではないのかもしれないが、それでも彼女はテープを聴き続ける。そのテープを聴いている間は恋人が生き返り、自分のそばにいるかのように。
結局、この物語は、恋人の突然の死をいかにして乗り越えるのかという物語である。いきなり自殺し、小説と、ジャケットと、ライターと、カセットだけを残した彼、モーヴァンはその死をまったく受け容れられない。だから彼が葬式の資金は銀行にあると書き残しても葬式をあげようとはしないし、そもそも誰にも彼の死を告げようとしない。親友でその彼と浮気したことがあるらしいララにはそのことを告げようとしている雰囲気のシーンが何度かあるが、それでもなかなか彼女はその事実を言わない。「彼は出て行った」という事実を周囲に言い、そう言うことでそれが事実になるかのような錯覚を覚えているのかもしれない。
----------以下ネタばれあり----------
モーヴァンはその恋人の死体を隠す。それは結局彼女が彼の死を受け入れることができなかったということを意味する。小説を自分の名前で出版社に送るというのも、彼の一部である小説を自分の名前で世に出すことで彼の一部を自分の中に取り込もうとしているととることも出来る。そして、その小説も含めた彼が含めたものが身の回りにある限り彼は死ぬことはない。だから彼女はカセットテープを聴き続ける。
物語の終盤で彼からもらった(と思う)ライターがつかなくなる。これがきっかけになったかのようにモーヴァンはララから離れて行く。それは彼の死を直視しないためにまたひとつ現実のひとつの要素を切り捨てることだったのではないか。そのようにして彼女が手に入れるのは自由などでは決してない。彼女はただ現実から逃げ続けるだけだ。
だから、この物語には救いがない。「クールだ」という印象は受けるけれど、すごく暗く、そして不毛な感じがする。この暗さと不毛さはしかしある種のメッセージではあるのかもしれない。
現実とはそもそもどのようなものなのか。“彼”が生きていない現実はモーヴァンにとっては現実ではない。その現実ではない現実から逃げて何が悪いのか。