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モーターサイクル・ダイアリーズ

2005/6/14
The Motorcycle Diaries
2003年,イギリス=アメリカ,127分

監督
ウォルター・サレス
原作
エルネスト・チェ・ゲバラ
アルベルト・グラナード
脚本
ホセ・リベーラ
撮影
エリック・ゴーティエ
音楽
グスターボ・サンタオラヤ
出演
ガエル・ガルシア・ベルナル
ロドリゴ・デ・ラ・セルナ
ミア・マエストロ
グスタボ・ブエノ
アントネラ・コスタ
preview
 1952年、ブエノスアイレス、医学生のエルネストは29歳の科学者アルベルトと南米を縦断するバイク旅行に出かけることにした。まずエルネストの恋人で金持ちの娘のチチーナのところに寄り、優雅な時を過ごすが、その後はおんぼろバイクのポデローサ号に四苦八苦。それでもついに国境を越え、チリに入る…
 キューバの革命家チェ・ゲバラ(エルネスト)と旅をしたアルベルト・グラナードのそれぞれの自伝を『セントラル・ステーション』のウォルター・サレスが映画化した作品。ちなみに、アルベルトを演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナはチェ・ゲバラの実のはとこ。
review

 これだけ有名な革命家の自伝を映画化するのは非常に難しいことだ。あまり思想的なものを強くしてしまってもダメだし、だからといってただの青春ロード・ムービーじゃチェ・ゲバラが主役の意味がない。だから監督はチェ・ゲバラが革命思想を手にするその瞬間を描くことにした。具体的な闘争に入る前の革命思想はヒューマニズムの匂いを漂わせ、青春と非常に近しいところにある。おそらく自分の病気をひとつの契機として医者になることで人を助けるということを人生の目標にしてきたバカ正直な青年が、より広い視野を持つことで「それだけではダメなのだ」ということに気づく。そのようなある種普遍的な成長物語となることでこの映画は広く受け入れられうる映画となることに成功している。
 しかし、それでもやはりこの作品の評価は微妙だ。この作品はその性質上、これをチェ・ゲバラという革命家の前史としてみることも、エルネストとアルベルトというふたりの青年の冒険譚としてみることも出来る。しかし、その両方の要素が含まれているためどちらか一方の見方で見ると、中途半端な作品となってしまうからだ。

 まず、この映画が革命家チェ・ゲバラ誕生の前史であると位置づけてみてみると、この映画が追ったゲバラの時間とは、彼が思想的な目覚めを体験する時間であるということになる。この時間の中には彼がこの物語の後に実行する革命の支えとなる思想が存在しており、彼の旅とはそのような思想を徐々に獲得して行く旅なのだ。具体的には、彼が今まであまり眼にすることがなかったであろう貧しい人々の生活を知り、彼らを助けたいという考えを持つようになる。それは彼がもともと「人を助けたい」という考えを持っていたことから自然に発したことのようだが、もちろんそれだけではなく、そこには思想的な啓発が存在する。この映画にはそれが描かれてはいる。それは彼らがリマで訪ねたペシェ博士のところのことだ。ここでエルネストは一冊の本を手にする。セリフにも出てきたと思うがそれはホセ・カルロス・マリアテギの本『ペルーの現実解釈のための七試論』である。これは1928年に出版された本で、ラテン・アメリカの革命思想を説いた古典的な書物である。そしてそこでは先住民の共同体を社会主義の基礎とするという思想が含まれていたのだ。
 このマリアテギの思想と旅程で見た先住民たちの姿が重なり合って、ひとつの思想が芽吹いたと考えるのは非常に自然なことのように私には思える。この作品の描き方では単純に先住民たちを「同じ人間として」助けたいと考えたと捉えられると思うが、(映画に出てきた彼の演説からすると)彼は旅の途中で自分自身と先住民が「混血の一民族」であると見出したはずだから、そこには矛盾が生じるのではないだろうか。
 そして、その矛盾はその思想的な部分の説明を入れてしまうと、物語が冗長になってしまい、冒険物語としての面白みをそいでしまうからなのだろうと私は思うのだ。そのような意味でこの作品は革命家チェ・ゲバラの前史としては中途半端だ。
 だからやはり、この映画は基本的にエルネストとアルベルトというふたりの青年の冒険物語としてみたほうが面白い。そして、その中心はエルネストよりむしろアルベルトなのだ。確かに物語の主人公はエルネストだが、冒険を始めるのも、冒険を進めるのも、冒険を終わらせるのもアルベルトだ。これは基本的にあるベルトの目からエルネストとの冒険を語った物語である。いつもおちゃらけているアルベルトには革命の思想などあまり意味はない。彼はただそのような思想を育むエルネストを見守っているだけだ。それはエルネストが革命家だからではなく、彼の友人だからである。年若の友人が旅をするうちに成長して行く、その姿を眺めて彼は楽しんでいるのである。

 美しい風景を捉えた映像と、いい音楽、それを背景にしてふたりの青年が旅をする。そして、その道中には笑いや感動が溢れている。そんな映画を見るのなら、その一人が後に革命家となるチェ・ゲバラであることなんてどうでもいいことなのかもしれないと思ってしまう。ただこの映画を見て、チェ・ゲバラという人物に興味を持ち、彼について知ろうとすればよい。そのような意味ではこの作品はチェ・ゲバラの出発点を描いたものであると同時に、観客にとってもチェ・ゲバラを知る出発点となる映画なのではないかと思う。

Database参照
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