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真空地帯

2005/8/12
1952年,日本,129分

監督
山本薩夫
原作
野間宏
脚本
山形雄策
撮影
前田実
出演
木村功
利根はる恵
神田隆
加藤嘉
下元勉
西村晃
preview
 刑務所で2年数ヶ月をすごし、上等兵から一等兵に降格となって、原隊復帰を果たした木谷は知らない兵ばかりの中でくさくさとして過ごしていた。そんな中、元教師の三年兵會田が彼の世話を焼いてくれ、彼が刑務所へと送られた事件の真相が明らかになって行く…
 山本薩夫が軍隊生活をリアルに描いて毎日出版文化賞を受賞した野間宏の原作を映画化した作品。
review

 この主人公が苦境に陥るのは上官による不正が原因である。そして、この映画は始まった段階では物語がどのように展開して行くのかが明らかではないし、主人公がいったい何をしようとしているのかも明らかではない。彼はただ二年数ヶ月という時間が何を変えてしまったのかということをまずは探ろうとしているだけだ。だから、この物語はサスペンスとしては展開しない。つまり、彼がその不正の黒幕を暴いたりという風には展開していかないのだ。これは謎解きの物語ではなく、あくまでも軍隊というところについての物語であり、一人の男が軍隊というものに振り回された悲劇なのである。
 この作品を観て思うのは、軍隊における不正の温床はそのトップにあるのではなく、尉官か下士官のレベルにあるということだ。これは戦後に作られた多くの戦争映画に共通するパターンである。悪いことをするのは中隊付きの少尉とか、軍曹なのである。なかなか佐官レベルまでがその不正に関わっているということはない。彼らはただその不正に目をつぶり、自分にその災禍が降りかかろうとするとそれを隠蔽するだけだ。
 そのようなパターンが生まれる背景には、実際にそのようなことが軍隊で行われていたということに加えて、戦後の混乱期に、尉官や下士官だったような人々が軍の物資を大量に横流しして私服を肥やしたという要素も関係してくるのではないか。貧しい人々の怒りが彼らに向けられ、戦争中も悪いことをしていたに違いないという風潮が生まれるても不思議は無い。

 この主人公は反抗的でアウトローな人物であり、軍国主義とはあまり結び付けられていない。彼は軍国主義/軍事独裁の犠牲者というよりは、その中に潜む悪の犠牲者である。そしてその悪は、当時の日本軍に特有なものというわけではなく、あらゆる軍隊、あらゆる官僚機構に存在するような不正である。だからこの物語は軍国主義を告発するというよりは、官僚機構内に存在する不正という普遍的な問題を扱った物語であるのだと思う。
 彼と軍国主義が結びつくのは、ただ死への旅路でしかない南方の野戦行きという命令に従わざるを得ないという点のみにおいてである。

 敗色濃厚の軍隊はこんな感じだったのだろうか。この頃の観客のほとんどは実際に戦争を経験しているわけだから、このようなリアリティを必要とするドラマにおいて大きな誇張はないだろう。日本軍の過酷さというGHQのキャンペーンの要素はあるにしても、兵士たちの間に厭戦ムードが漂っていたこと、死ぬために前線に行くことを悲観していただろうことは想像できる。
 しかしそれは当たり前のことだ。誰が負け戦のために進んで死にたいものか、にもかかわらず、人々を死地に追いやるシステムに疑問を投げかけてしかるべきだ。
 それを描きながら、この映画は何を言うのか。この映画が言っているのは軍隊の中のそれぞれの個人の問題だけだ。組織としての軍隊ではなく、個人としての将兵を描いているだけだ。だから、いま戦争というものを考えようとしてこの作品を見ると、拍子抜けするような感じを受ける。しかし、戦争が終わりかけていた頃、兵士たちは軍隊という巨大な機構の歯車であることをやめ、人間性を取り戻さんとしていたのかもしれない。学徒出身の兵隊たちは、「軍隊は人間性を奪うところらしい」と話し合う。それが軍隊と兵士との関係を象徴しているような気がしてならない。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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