バーバー吉野
2005/8/21
2003年,日本,96分
- 監督
- 荻上直子
- 脚本
- 荻上直子
- 撮影
- 上野彰吾
- 出演
- もたいまさこ
- 米田良
- 大川翔太
- 村松諒
- 宮尾真之介
- 石田法嗣
小さな田舎町の神のゑでは、小学生以下の男の子はみな同じ髪型をし、そのおかっぱのような髪型は町で唯一の床屋バーバー吉野にちなんで“吉野ガリ”と呼ばれていた。町にすむ子供たちはそれに特別疑問を感じることも無かったが、ある日東京からおしゃれな髪型をした小学生がやってきて…
第13回PFFスカラシップ作品として作られた荻上直子の監督デビュー作。なんといっても秀逸なのは、同じ髪型という突飛なアイデア。
町の子供たちがみんな同じ髪型、しかも変な髪形でしかも名前が吉野ガリ。そのアイデアはとても面白い。しかし、映画の始まりの思わせぶりな映像と、少年たちが原っぱで合唱をする映像のこれ見よがしの長さからして、やりすぎという意感じがする。せっかくの面白いアイデアだから、それを見せたいとう気持ちはわかるが、作品としての効果を上げるには、それが当たり前のことだと町の人が考えているということを見せた方がよかったのではないかと思う。観客は予告編なりチラシなりで、その髪型の事はすでに知っているし、それが変だということも知っている。にもかかわらず、町の人たちがそれを変だと思っていないというギャップのほうを観客に見せた方がよかったのではないか。
それは、この映画の語りの立ち位置の曖昧さにも通じる。観客は町の人々の視点に立てばいいのか、転校生の位置に立てばいいのか、それとも傍観者の位置にいればいいのか。その辺りの視線の誘導が今ひとつで観客は映画に入り込むことが難しいのではないだろうか。
私は吉野ガリは変だとは思うが、伝統は伝統なんだし、小学生の間くらい我慢すればという大人に近い意見を持った。伝統というものは作られたものだから、その時代時代に応じて変化して行ってもいいはずだ。この伝統についても子供たちが吉野のオバさんの陰謀説なんてのを考え付くくらいにおかしなものだ。だっておじいさんが子供の頃は今とは学制が違っていたし、おじいさんのおじいさんの頃にはそもそも小学校なんて無かったのではないか。だから、少なくとも小学生が吉野ガリにするという伝統は最近作られたものでしかない。それなら、吉野ガリの年齢を引き下げて、小学校3年生までとかにすれば、文句も少なくなるんじゃないのなどという余計なことまで考えてしまった。
そんなことを考えてしまうのも、この映画にちぐはぐさがあって、無駄なというかどのように位置づければいいかよくわからないエピソードが挟まれているからだ。たとえばおねえちゃんが男に捨てられるというシーンにいったいどのような意味があるのか。大人になるということの意味を理解するためのひとつの手がかりとしてあったのだろうか。
吉野ガリの来歴の説明や、お父さんの失業などは非常にうまく組み立てられているのに、こういう中途半端なエピソードが挟み込まれるというのはもったいないというか、残念な感じがする。もしかしたら、それらも絡めてもっと長くて複雑な物語があったのかもしれないと想像してみると、それはそれで面白そうだが、結局このような校正に編集してしまったのだから、この作品はその程度ということになってしまう。
もう少しうまく作ったらすごく面白く作品になったような気がするだけに残念だ。