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ハッピー・フューネラル

2005/8/29
Big Shot'S Funeral
2001年,中国=アメリカ,100分

監督
フォン・シャオガン
脚本
フォン・シャオガン
リ・シャオミン
シー・カン
撮影
チャン・リー
音楽
サン・パオ
出演
ドナルド・サザーランド
ロザマンド・クワン
グォ・ヨウ
ポール・マザースキー
preview
 中国で『ラスト・エンペラー』のリメイクを撮影する映画監督のタイラー、そのタイラーの行動を追ってメイキングを撮影する仕事を請けたカメラマンのヨーヨー、アイデアに行き詰まったタイラーはジョシュのルーシーとヨーヨーとの会話の中で中国では70歳以上で死んだ人には「楽しい葬式」を上げるのだという話を聞いて、そのアイデアを大いに気に入り、自分が死んだらヨーヨーにそんな葬式をあげて欲しいというのだが…
 中国映画界では有名なフォン・シャオガンのアメリカとの合作映画。中国映画にアメリカ的な要素がうまく入り込んだ佳作。
review

 映画の本質とは観客をだますことにある。世界で最初の映画といわれるリュミエール兄弟の『列車の到着』の観客がスクリーンに映った列車がスクリーンを飛び出してくると錯覚して逃げ出したというのはあまりに有名なエピソードである。これが実際に起こったこととはとうてい信じがたい(当時の観客も映画と現実の区別くらいはついたはず)が、このようなエピソードがまことしやかに、100年以上にわたって語り継がれるというのは、このエピソードが「だます」という映画の本質を見事に捉えたエピソードであるからだ。つまり、ここで観客は「列車がこっちに向かってくる」という虚構に見事に「だまされた」というわけだ。
 この作品は、その映画の本質である「だます」という点に立ち返った映画のように思える。前半は比較的普通の映画として展開して行き、ヨーヨーが葬式をどうするかというドタバタで観客を笑わせるコメディとして成立するのだが、タイラーが意識を取り戻したところでまずタイラーとルーシーがヨーヨーをだまし始める。ここから、映画の展開は大きく変わって行く。タイラーがヨーヨーをだますというだけならば、それは映画の中だけの話だが、タイラーがこの出来事自体を映画のようだと考え、そこから何かをしようとたくらみ始めたとき、観客もこの「だます」ゲームに巻き込まれていくのだ。タイラーの葬式騒動はタイラーが息を吹き返したことをヨーヨーが知ったところでプツリと切れ、次には「数ヵ月後」というインタータイトルが入り、ヨーヨーが精神病院にいるという場面に移る。ここからはころころと展開が変わって行き、観客は見事にだまされる。それが映画の大きなクライマックスなので、具体的には言えないが、この部分に「だます」ものとしての映画の楽しみが存分に含まれていると思う。

 だから、この映画は徹底的に映画の映画である。映画の映画というのは楽屋落ちという感じで失敗する例も多いのだけれど、この作品は葬式という要素を取り入れることで、見事に成功していると思う。観客は知らず知らずのうちにこの映画が仕掛けた映画の世界に入り込んで行き、この映画の登場人物たちとその場を共有してしまう。あまり中国映画らしい作品ではないので、中国映画としてはメジャーではないが、なかなか面白い映画だと思う。中国映画も、いかにも中国映画という作品ではないこのような作品が数多く出てくることによって、日本でもどんどん受け入れられるようになるのではないかと思う。
 欲を言えばもう少しアメリカと中国のギャップというようなものを描いて欲しかった。特にルーシーというアメリカと中国の中間にいるキャラクターもいることだし、葬式という文化の違いが強く出るものを対象としているのだから、そこを掘り下げて行って、もっと笑いの要素を強く出せば、非常に面白い作品になったのではないかと思う。ただその場合、観客が中国人の場合、アメリカ人の場合、そして日本人の場合ではその反応の仕方が違ってきてしまうだろうから難しい事は確かだ。
 この作品でも、葬式の形態の面白さでは中国らしさを出しているし、広告という商業主義によってアメリカ的なものと中国の商業主義化(アメリカ化)を表現してはいる。しかし、その全てが中国からの視点という感じがして、アメリカ的な価値観との衝突やギャップというものがなかなか見えてこない。ドナルド・サザーランド演じるタイラーの人物像が今ひとつ見えてこないのも、そのひとつといえるだろう。もう少しアメリカ人の視点を生かして中国側のおかしさというものも表現した方がコメディとしては面白くなったのかもしれない。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 中国

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