真夜中の弥次さん喜多さん
2005/9/6
2005年,日本,124分
- 監督
- 宮藤官九郎
- 原作
- しりあがり寿
- 脚本
- 宮藤官九郎
- 撮影
- 山中敏康
- 音楽
- ZAZEN BOYS
- 出演
- 長瀬智也
- 中村七之助
- 小池栄子
- 阿部サダヲ
- 榎本佑
- 寺島進
- 竹内力
- 森下愛子
- 板尾創路
- 古田新太
- 山口智充
- 清水ゆみ
- 松尾スズキ
- 中村勘九郎
- 研ナオコ
- ARATA
- 荒川良々
恋人同士の弥次さんと喜多さん、弥次さんは喜多さんのヤク中を治し、リアルを取り戻すため一緒にお伊勢参りの旅に出ることにする。まずはバイクで一気に伊勢に行くが、警察に捕まって江戸まで戻され、今度は徒歩で伊勢に向かうことに。さして最初にやってきた箱根では笑いのセンスがないと関所を通れないという…
しりあがり寿が十返舎一九の『東海道中膝栗毛』をシュールに漫画化した同名漫画とその続編の『弥次喜多 in DEEP』をしりあがり寿のファンという宮藤官九郎が脚本・監督。シュールな笑いに溢れる快作。
最初は白黒、時代劇っぽい映像だが、部屋の壁にはしりあがり寿の絵がびっしり、只者ではない雰囲気を漂わせる。そして、伊勢神宮からのダイレクトメール。それだけが封筒に入っており、表にはご丁寧に「料金別納」の判まで印刷されている。そして、その絵はやっぱりしりあがり寿。ここまでですでに相当独特な世界を展開しているのに、旅に出ようとするといきなり弥次さんはヒップホップになり、ふたりは『イージー・ライダー』でピーター・フォンダがまたがっていた星条旗柄のタンクがついたチョッパーで旅に出る…
…
…
あー!!何だこの世界はーー!!
まさにしりあがり寿と、大人計画のくだらなさが出会い、ぶつかり合い、こてこてになって、宮藤官九郎がとにかく自分の好きなものを片っ端から詰め込んで、それをごっそり皿に盛ってとりあえず出したという感じのちゃんぽん映画、パンクなのか、サイケなのか、あるいはロックなのか。
ともかく、この映画は既存のものをぶち壊し、それを笑い飛ばしてしまおうという精神から作られている。それをロックと呼ぼうがパンクと呼ぼうがそんな事はどうでもよく、それで面白いものが出来ればよい。ただそれだけの映画なのだ。だから、この映画がいったいどんな映画なのかということを解明していこうとする事はまったく無駄なことだ。この映画は全体として何の意味も持っていない。ただただ様々なことを笑い飛ばすこと、その小さなギャグが積み重なって出来た完全なギャグ映画なのである。
しかし、やはり今をときめく売れっ子のクドカンだけに、その一つ一つのギャグにはキレがある。その理由はまずひとつには細かいところまで作り込むマニアックさ最初に登場した伊勢神宮からのダイレクトメールもそうだが、とにかく小さなところにも笑いが込められている。そして、もうひとつは出演している人々、有名な人がたくさん出ている事はもちろんだが、その多くは宮藤官九郎がずっと一緒に仕事をしていたり、好きだったり、尊敬したりしている人である。松尾スズキ、阿部サダヲ、荒川良々などの大人計画の面々はもちろんのこと、竹内力といえば、宮藤官九郎がやっているバンド“グループ魂”の1stシングルでもある。などなどいろいろなネタが絡んでくるわけだ。
宮藤官九郎という人は、いろいろなことが出来る人だから、映画だったり、ドラマだったり、舞台だったり、バンドだったりで、それぞれにあわせていろいろな面を見せる。しかしこの映画はまさに彼が自分の好きなコトを自分の好きなようにやったという感じが伝わってくる。その徹底振りと、こってりとした濃さはこれまで「クドカンっておもしろいよねー」と言っていた人たちを逆に引き離すかも知れないくらいにすごい。
しかしやはり、普通に面白いクドカンの根っこのところにはこんな徹底的にわけのわからないことを考え続ける宮藤官九郎がいるということを考えた方が面白いし、それを見ることで初めて本当に、彼のやっていることがいかに新しいことなのか(しかし、同時に古いものを蘇らせることでもある)ということがわかるのではないかとも思う。