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上海の月

2005/10/2
1941年,日本,114分(53分)

監督
成瀬巳喜男
脚本
山形雄策
撮影
三村明
音楽
服部良一
出演
山田五十鈴
汪洋
大川平八郎
佐伯秀男
清川荘司
里見愛子
真木順
大日方伝
preview
 中国大陸へ侵攻した日本軍の諜報部員は中国側の友人と協力して上海の攻略に貢献する。しかし、抗日活動はやまず、日本軍は抗日ラジオ放送の妨害のため、中国人の京露絲に協力を求める。
 成瀬が上海に渡り、東宝と中華電影公司の合作でとったスパイ映画。成瀬が撮った数少ない国策映画のひとつ。山田五十鈴が中国人役で登場し、不思議な魅力を見せる。現存するプリントは全体の半分以下の53分だけ。
review

 この作品のような一部が失われた作品を観るのは悲しい。この作品は国策映画で、それほど成瀬らしさが見えるとは残っているプリントからは思えないが、それでも山田五十鈴と中国人女優の汪洋の共演は見ものだ。しかし、さすがにプリントが半分以下となると、物語の筋が今ひとつ見えてこないし、人間関係もわかりにくいから映画に入って行くことが出来ず、映画の面白さを充分に味わえない。それがとても悲しい。
 この作品に限らず、日本映画には失われた映画が本当に多い。昭和のはじめ頃まではそもそもフィルムを保存するという観念がなく、多くの作品が失われてしまったらしいし、当時のフィルムは非常に燃えやすく、火事などをよく起こして消失してしまうことも多かったらしい。そして、戦火に失われたフィルムももちろん多い。成瀬の作品も彼がPCLに移籍する以前の松竹時代のサイレント作品のほとんどが見付かっていない。そして小津の初期作品や夭逝の天才・山中貞雄の作品のほとんどが今は失われてしまっていることはいうまでもない。
 それでも、撮影所の思わぬところから古いフィルムが見付かったり、外国の機関が保存しているものが見付かったり(成瀬の作品もロシアのゴスフィルモンドで見付かったものがある)、個人の収集家が上映されている作品を8ミリで撮影したものが見付かったりすることもある。私たちはそんな奇跡を信じて失われたフィルムに想いを馳せるしかないのだ。
 そのようにして多くの作品が失われてしまったというのは悲しいことだ。ひとりの監督や役者の作品の数は限られている。たとえば成瀬作品の面白さにはまって、その作品を全部観ようと思ったら、今見れる作品は意外と簡単に見れてしまう。そしてもうそれ以上新しい作品を見る事は出来ない。今も健在な監督や役者なら新しい作品も生まれてくるのだが、もう亡くなってしまった人たちの作品はもう増えない(当たり前だが)。にもかかわらず、失われてしまった作品まであるのだ。
 そんなことを考えると、全ての作品を観てしまうのがなんだかもったいなくなってしまう。繰り返し見る事はもちろんできるが、作品に出会うという感動は二度と味わえなくなってしまうのだ。映画を見るなんて事はほんの些細なことだが、それがいわば一期一会の体験だと思うと、貴重なものにも思えてくる。そのたった一度の出会いがどのようなものになるのか、大きなスクリーンで見るのか、自宅の小さなテレビで見るのか、ひとりで見るのか、いっぱいの劇場で見るのか、その見え方は些細な違いによって変わってしまう。映画というのはフィルムに焼き付けられた普遍のものであるように思えるが、それはあくまでフィルムに過ぎず、映画を見るという行為は毎回異なる一期一会の経験なのだ。
 この作品は確かに退屈だが、その失われた部分に何があったのかと想像すると、映画のはかなさというか、不安定さに思い至る。いま作られている映画のほとんどは失われるなんて事はおそらくないが、それを見るという経験は一期一会のものであり、簡単に失われて二度と戻ってこないものにもなりうるのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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