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ランド・オブ・プレンティ

2005/10/17
Land of Plenty
2004年,アメリカ=ドイツ,124分

監督
ヴィム・ヴェンダース
原案
ヴィム・ヴェンダース
スコット・デリクソン
脚本
ヴィム・ヴェンダース
マイケル・メレディス
撮影
フランツ・ラスティグ
音楽
トム&ナクト
出演
ミシェル・ウィリアムズ
ジョン・ディール
リチャード・エドソン
ウェンデル・ピアース
バート・ヤング
preview
 ロサンゼルスに降り立ったラナはアフリカとイスラエルで10年間をすごし、生まれ故郷のアメリカに帰ってきた。とりあえず伝道所で世話になるラナは死んだ母の兄ポールに母の手紙を渡したいと思っていた。そいのポールは監視装置がついたバンで街を走り、9.11以降テロの芽を摘むために不審者を監視している。そのポールが段ボール箱を抱えた怪しげなアラブ人を見つけ、尾行する…
 巨匠ヴェンダースがアメリカの現在をスッと切り取った緊迫感ある一作。どこか物悲しく、しかしやさしい。
review

 ポールはヴェトナム戦争の帰還兵であり、その肉体的な後遺症に今も苦しんでいる。その彼が見た9.11はそのつらい体験をフラッシュバックするに足る衝撃的な事件だっただろう。ポールの中で重なった記憶は彼を極端な行動に走らせ、街を監視するという作業に没頭させる。
 確かにポールの行動は極端ではある。しかし、彼の行動は実はアメリカ人の強迫観念を象徴してもいるのだ。マイケル・ムーアの指摘を待つまでもなく、アメリカ人の特徴とは他者/エイリアンに対する病的な恐怖心である。9.11は初めて“本土”を攻撃されたことでその恐怖心を究極までに煽った。もちろん恐怖心が必ずしもマイナスに働くとは限らない。ポールの恐怖心は警戒心に転化し、自分自身とアメリカの人々を守るための活動に向かわせた。そして、彼のその行動が実際にアメリカ人を救うことにならないと断言する事は出来ない。もしかしたら彼は本当にテロの芽を摘むことに成功するかもしれないのだから。
 この映画は、彼の恐怖心→警戒心が導く行動の結果がどうなるかというミステリーを物語を引っ張るプロットとして採用する。観客はまずこのポールの行動の結果、ポールが目をつけた男がいったい何者で、何をしようとしていたのかという謎解きにひきつけられる。もちろん、ポールの疑惑が的外れだろうということは容易にわかる。しかし、どこかに「もしかした…」という危惧がわずかにあり、これが人々をつなぎとめておくのだ。
 彼がそのような変質的な恐怖心を描くのは、彼が実際に恐怖を体験したからだ。言葉には表さないが(おそらく思い出したくないのだろう)、彼はヴェトナムで相当な経験をし、その恐怖は枯葉剤の後遺症という忘れえない刻印として体に刻み込まれているのだ。

 ポールがヴェトナムの記憶と9.11を重ね合わせて、恐怖心を募らせているのに対して、ラナはイスラエルの記憶とLAを重ね合わせる。ラナがLAを見る視線は戦争の影がちらつくイスラエルを見る視線と重なる。ラナにとって、10年の空白を経て戻ってきたアメリカは記憶にあるアメリカとは別世界でありながら、あまりになじみのある世界だった。ラナのLAに対する反応の薄さからそのようなことが見て取れる。
 そのようになるのは、アメリカとイスラエルの関係から言って必然的なことだ。まずイスラエルがアラブ人を排除するという構造はまるでアメリカのコピーである。恐怖心から他者/エイリアンを排除し、囲い込んで、自分のテリトリーが安全であるという幻想を得ようとするやり方、それはアメリカが18世紀に先住民に対してやったのとまったく同じことだ。イスラエルは先住民であるアラブ人を排除し、限られた地区に押し込めた。それは逆襲という恐怖を常に生み、それが絶え間ない排除と抗争を生み続ける。アメリカは圧倒的な勝利によってその恐怖をぬぐったが、イスラエルはいまだその恐怖をぬぐい切れていない。
 そしてまた、9.11によって逆にアメリカがイスラエルのコピーともいいうる状態になった。アメリカはアラブ人を他者とみなし、彼らを排除したいという誘惑に駆られている。アラブ人の全てがテロリストではないと理性ではわかっているのだが、彼らの病的な恐怖心はアラブ人を根こそぎ排除することを要求するのだ。恐怖心が理性に勝てば、アメリカはイスラエルになる。

 つまり、ヴェンダースがここでやろうとしているのは、ヴェトナムとイスラエルと10年前のアメリカと現在のアメリカという4つの世界を重ね合わせることだ。その4つを重ね合わせることで浮かび上がってくる現在のアメリカの姿、それこそが9.11から2年後にヴェンダースが描こうとしたものなのだ。
 そして、その現在のアメリカで、恐怖心に駆られたひとりの男が行動し、何かを見つける。その彼が見つけた「何か」の中に自分自身ももともとはエイリアンであるヴェンダースはアメリカの未来に対する希望を見出そうとしたのではないか。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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