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ベストセラー

デビッド・クローネンバーグのシーバーズ

2005/11/4
Shivers
1975年,カナダ,94分

監督
デヴィッド・クローネンバーグ
脚本
デヴィッド・クローネンバーグ
撮影
ロバート・サード
音楽
アイヴァン・ライトマン
出演
ポール・ハンプトン
ジョー・シルヴァー
リン・ローリイ
アレン・マジコフスキー
preview
 デトロイト近郊の島に作られた住宅地の一室で、凶暴になった少女の首を絞め、外科手術を施して自分も自殺した医師ホッブス。そのホッブスからの連絡で部屋を訪ねたその島の診療所の医師ルークが死体を発見、彼はホッブスのパートナーの医師ロロから彼らが寄生虫を使った臓器移植の研究をしていたことを聞くが…
 島を舞台に寄生虫が巻き起こすパニックホラー。クローネンバーグの長編デビュー作となる。
review

 クローネンバーグの作品の“感じ”というのは独特で、どの作品でもどこかに頼ったところがある。この作品にももちおろんその“感じ”があり、個人的な感覚でいうと、『ビデオドローム』に非常によく似た皮膚感覚の作品であるように思える。それはおそらく薄い膜の下で蠢く謎の物体というイメージでつながるのだろう。
 この作品が作られたのは1975年、『ビデオドローム』が81年、『ザ・フライ』が86年だから、クローネンバーグが世界的に認められるにはまだ10年もの時間が必要だったということになる。
 しかし、この作品はすごいと思う。物語よりもまず、この寄生虫の描写の技術の素晴らしさがある。腹部の皮膚の下で蠢く生物と言ってすぐに思い出すのは『エイリアン』だが、その『エイリアン』が作られたのは1979年、この作品よりも数年後である。また、人間が乗っ取られて、人を襲うという発送で思い出される作品といえば『ゾンビ』だが、この作品はその『ゾンビ』よりも3年早い。ただ、『ゾンビ』ということで言えば、同じジョージ・A・ロメロ監督が取ったゾンビ映画の古典『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』が公開されたのは1968年であり、カルト的な人気を集めたこの作品をクローネンバーグも見て、影響を受けたのではないだろうかと思う。
 つまり、この作品は新しいホラー映画が生まれ行く中で、ひとつの新しさを作り出したということである。そして、クローネンバーグはそれを自分のスタイルとして、技術的な部分や発想やモチーフを発展させながら再生産して行くその出発点になってもいる。そしてその技術や発想はほかのホラー映画に影響を与え、様々な作品で独自の発展を遂げた。クローネンバーグ自身は他にはまねの出来ない独自のスタイルで主流のホラーからは少しずれたところで活躍して行く。
 この作品も、デビュー作にしてクローネンバーグらしさが十全に発揮されている。様々なものの造形の気持ち悪さと、暗がりに巣食う恐怖、映像手法の変化により観客を引き込むやり方、それらは荒削りで決して完成されているとはいえないが、それでもひと通りではない。いちばん未熟さを感じるのはカメラワークで、途中で看護婦のフォーサイスの主観ショットをいれるなどして工夫を凝らしているのだが、観客の視線を操作して観客を恐怖に陥れるという点では今ひとつ成功していない。出来ることならば、その寄生虫に乗っ取られる瞬間の感覚や乗っ取られた後の感覚をも描くことで、その恐怖を増し、観客を震えあがらせて欲しかった。
 そして、もうひとつ、この寄生虫の持つ意味というか、隠喩として何を示しているのかということがわかりにくかった。クローネンバーグのことだからただ単に医学の進歩が生む恐怖というような単純なことを描こうとしているわけではないだろう。凶暴化した人間に暴力によって屈服させられたものがその仲間となり、同じことを繰り返す。その事はなにかを象徴的に示しているような気はするのだが、表面的な怖さのほうが優先されて、その部分は余り掘り下げられていなかったように思える。
 とはいえ、ラストシーンも含めたラストの10分の恐ろしさはさすが。ホラー映画といいながら、終わってみればちっとも怖くないハリウッド映画とはまったく違う怖さがそこにはある。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: カナダ

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