キッチン・ストーリー
2005/11/16
Salmer Fra Kjokkenet
Kitchen Stories
2003年,ノルウェー=スウェーデン,95分
- 監督
- ベント・ハーメル
- 脚本
- ベント・ハーメル
- ヨルゲン・ベリマリク
- 撮影
- フィリップ・オガールド
- 音楽
- ハンス・マティーセン
- 出演
- ヨアキム・カルメイヤー
- トーマス・ノールシュトローム
- ビョルン・フロベリー
- リーネ・ブリュノルフソン
- スブレエ・アンケル・オウズダル
スウェーデンで主婦の台所での動きの研究に成功した研究チームは今度はノルウェーで独身男性について研究するため、調査員を台所に常駐させ、調査対象とはまったくコミュニケーションを図ることなく観察するという調査を行うことにした。その調査員の一人フォルケはイザックという初老の男の担当になるが、なかなかフォルケを中に入れてくれない…
実際に50年代にスウェーデンで行われた調査をヒントにノルウェーの映画監督ベント・ハーメルが映画化。北欧らしい独特の雰囲気が面白い。
北欧といえばすぐに思い出すのはアキとミカのカウリスマキ兄弟だろうか。他にもイングマール・ベルイマンなど意外に多くの映画監督が世界的な評価を得ている。そんな北欧で映画製作会社を経営しながら映画監督もしているのがこのベント・ハーメルである。日本ではもう一本『卵の番人』という作品が公開されている。その作品は観ていないのでわからないが、他の北欧の作品と比べてみると、そこには何か北欧らしさというものがある。それは、透き通っていて、淡々としていて、どこか不条理な感じ。この作品がアキ・カウリスマキの作品をどうしても思い出させるのは、そのような北欧らしい感触が似通っているからだろう。
それを思うのは、まずこの作品の序盤にトレイラーが連なってスウェーデンからノルウェーへと向かうシーンである。一本の棒があるだけの国境らしきものを通過するとき、車は左斜線から右斜線へと移る。これはスウェーデンは左側通行なのに対し、ノルウェーは右側通行であるという違いを説明していて、その後にはわざわざ運転手の一人(プロジェクトのリーダーであるマームバーグ)に右側通行の道を走ると気持ち悪くなる、と言わせて強調するほどの念の入れようだ。こんなどうでもいいようなことをわざわざ語るのはどこかおかしさを伴うし、同じく世界の少数派である左側通行の国・日本に住むひとりとしては、ちょっとした共感を感じたりもする。
それが独特の雰囲気をかもし出し、この映画の世界観をぱぱっと表現するわけだけれど、このシーンはただそれだけのシーンではない。このシーンでは、棒一本で隔てられているだけのスウェーデンとノルウェーという国が似通った国のようで実は違っているのだということを象徴的に表現している。ノルウェーでスウェーデン人とノルウェー人は苦労なくコミュニケーションが取れているわけだが、実際にはスウェーデン語とノルウェー語は異なる言葉である。もともと同じ言葉だったために通訳なしでも意思の疎通は可能なようだが、あくまでも同じ言葉ではない。遠い日本から見れば、スウェーデンとノルウェーの区別などほとんど出来ないし、ここでしゃべられている言葉の違いなどまったくわからないが、そこには違いがあるし、それをこの登場人物たちが意識しているということが実は重要なのだ。
私たちには、これはふたりの初老の男が出あって友達になるというだけの話のように見えるが、実はそれが実現するには国籍/言葉の違いという壁が存在しているのであり、いうなれば部分的に他者である似て非なる文化を持ったふたりが理解しあうというところにこの作品の本当の面白さがあるのかもしれない。
残念ながら私にはその部分は理解できなかったが、それでもこの独特の雰囲気と、ほとんどおっさんしか登場しないこの映画の面白みは非常に魅力的だ。何を言っているというわけではないけれど、人と人との触れ合いが小さな幸せを生むということ、それに触れると見ているほうまで暖かい気持ちになる。それがこの映画の素晴らしいところだ。長い長い冬を過ごす北欧の国の映画は、表面的には冷たく透き通った感じがするが、中身はいつも暖かい。この作品もそんな映画のひとつだ。