逆境ナイン
2005/12/14
2005年,日本,115分
- 監督
- 羽住英一郎
- 原作
- 島本和彦
- 脚本
- 福田雄一
- 撮影
- 村埜茂樹
- 音楽
- 佐藤直紀
- 出演
- 玉山鉄二
- 堀北真希
- 田中直樹
- 藤岡弘、
- 柴田将士
- 内海桂子
全力学園野球部のキャプテン不屈闘志は校長から野球部廃部の勧告を受ける。不屈は野球部を守るため、甲子園優勝校の日の出商業に練習試合で勝つと宣言する。公式戦で一勝もしたことのない全力学園の面々は練習試合の勝利に向けて猛練習を開始する…
島本和彦の同名コミックの映画化。マンガの世界をそのまま映像化したようなバカバカしい映像とギャグがツボに入れば面白いのかもしれない。
映画とはいったい何か。このあまりに無残な映画を見ながら考える。
この作品は全てが監督の思い込みでできているような映画だ。スタッフも出演者たちもよくこの監督に付き合ったと思う。特にVFXは手間がかかっただろうと思われるだけにあまりに無残である。
ありえない設定の数々はまあいい。この映画から想像する原作のマンガでは、その設定がマンガらしい面白さを生み出すだろうし、映画にしても最近はありえないようなことを映画にするというのが当たり前になってきているから、そのこと自体は問題ではないし、この設定でも面白い映画ができないわけではないと思う。
しかし、その場合そのありえない設定から展開していった物語のどこかに驚きがあり、ギャップが生じて、笑いや時には感動が生まれてくるものであるはずだ。しかしこの映画はそのありえない設定を所与のものとしつつ、そのありえない物語がただそのまま進んで行くだけのことなのだ。最初の設定がありえないというだけで、そこから先の展開は想像の域を出ない。どころか、想像したもの以下のものしか存在しない。
そんな映画を誰が見たいものか。私は原作のマンガを見たことはないが、原作のファンはがっかり、怒りに実を振るわせるのではないかと想像する。
しかし、原作を見たくない私は、こんな無残な作品になってしまった原作を想像する。想像してみると、それはマンガ自体をパロディにしたマンガなのではないかと思えてくる。ありえないことがありえることのように書かれているスポ根マンガをパロディ化し、さらにありえない設定を持ち込み、それでも物語を成立させる。そうだとしたら、そこには爆発的な笑いが生まれえるのではないかと思うのだ。
しかし、これは映画だ。映画で原作どおりにマンガのパロディを作ってみても、そこには何のペーソスもウィットもない。巨大な文字が宙に浮かんだりするのを見ても、マンガでは普通であるそんなありえないことを映画でやったんだなということを確認するだけで、そこには何の意味も浮かんでこない。
この映画に可能性があるとしたら、なぜか空から降ってきた「自業自得」と書かれたモノリスをマネージャーがモップで拭こうとして全然下のほうしかふくことがというギャグのような「ありえなさが当たり前になっていること」をうまく盛り込んで行くことだろう。このギャグがよかったのは、これがギャグとして仰々しく言われるのではなく、画面の後ろのほうでひっそりと行われているからだ。そのようなさりげない面白さが表現できれば、映画らしい笑いが生み出せたのではないかと思う。
映画はマンガとは違って言葉に頼らなくとも、動きで様々な意味を表現できるメディアだ。この映画のように全てを言葉で表現するなら、映画を作る必要はない。そのままマンガで読んだほうが面白いのだから。