ティム・バートンのコープスブライド
2005/12/28
Corpuse Bride
2005年,イギリス,77分
- 監督
- ティム・バートン
- マイク・ジョンソン
- 脚本
- パメラ・ペトラー
- キャロライン・トンプソン
- ジョン・オーガスト
- 撮影
- ピート・コザチク
- 音楽
- ダニー・エルフマン
- 出演
- ジョニー・デップ
- ヘレナ・ボナム=カーター
- エミリー・ワトソン
- トレイシー・ウルマン
- ポール・ホワイトハウス
- アルバート・フィニー
- ディープ・ロイ
- ダニー・エルフマン
19世紀ヨーロッパのとある町、成金の魚屋の息子ビクターは落ちぶれた貴族の娘ビクトリアとの結婚を親に決められ、落ち込んでいたが、ビクトリアに会ってみると二人は意気投合。しかし、ビクターは結婚式のリハーサルで失敗を繰り返し、屋敷を飛び出してしまう。そして森の中で練習のために指輪を木の枝にはめると、それは死んだ花嫁の骨だった…
ティム・バートンがロシアの民話を題材に作ったパペットアニメーション。パペットとデジタル技術が融合し、見事な映像に仕上がっている。
物語という点では、さしていうことはない。民話が題材というだけに、典型なお伽噺であり、死後の世界を扱っているという点ではティム・バートンの気に入りそうな話だ。しかし、まあ結局はハッピーエンドに終わるわけで、民話というよりは童話という趣の話ではある。ティム・バートンは悪趣味な映像や題材を使うことは多いけれど、基本的に物語りはハッピーだったり、ハートウォーミングなものが多いので、このような物語に行き着くのも自然という感じだろうか。
それにしても、この映像はすごい。基本は布の人形を使ったパペットアニメーションだが、おそらくそこにモーション・キャプチュアなり何なりのディジタル技術を導入して、人形の動きや表情を滑らかにしていると思われるが、CGなのかパペットなのか判然としないような映像になっている。パペットのよさが失われている点もあるが、アニメーションとしてはやはり滑らかな動きが観客を物語世界に引っ張り込むのに役立つ。このアニメの滑らかさは一般的なパペット・アニメーションに勝っていることはもちろん、CGにも勝っている。CG独特の冷たさが人形の質感によってやわらげられ、逆にパペットのぎこちなさがCGの滑らかさによってやわらげられる。2つの技術のいいところを取ってこのような作品が出来たという印象である。
というわけで、いい映像と、それなりの物語で、いい作品に仕上がっているということになるわけだが、そこからさらに進んで行くと、ティム・バートンらしさが見えてくる。ティム・バートンといえば、死後の世界とか異形のものに対する興味が特徴的で、どの映画にも、そのような要素を取り込む。そして、もうひとつティム・バートン的なものといえば極彩色の色彩だ。しかもそれを白黒のものと対比させることによってそこに擬似的ににふたつの対立する世界を描き出す。それは例えば『シザーハンズ』に特徴的に表れている。
そして、この作品でも、色彩の世界と白黒の世界が対比されているのだが、ティム・バートンらしいのは、死後の世界のほうが色彩の世界であり、生者の世界のほうが白黒の世界だということである。生きている人間の生活する世界は白黒で、鬱屈としているのに対し、死んでしまった人間が闊歩する死後の世界は、陽気で明るい。
これは現実への失望というわけではなかろうと思うが、死の世界に対する憧憬は感じられる。ティム・バートンの描く世界は常に異形や死に隣接するところにある。彼にとって死は生と近しいところにあるものなのだ。死から分断された生など虚しい。人々が現実だと思っている狭い生の世界からはみ出すものにこそ、本当の生命力がある。彼が死者の世界や異形のものの世界を極彩色で描き出すとき、感じられるのはそのような考え方だ。
この物語もある意味ではファンタジーだが、現実から目を背けさせるいわゆるファンタジーのまやかしとは一線を画し、現実に隣接し、現実を彩るものとしてファンタジーを描く。そのファンタジーはまやかしのファンタジーよりリアルで気持ち悪いものかもしれないが、そのようなファンタジーのほうが心に染み入るのだ。
民話や昔話に死者の世界やお化けなどが登場するものが多いのも、そのような理由によるのだろう。ティム・バートンは民話を題材にすることで、そのようなことを訴えかけているように思える。