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ニノの空

2006/1/9
Western
1997年,フランス,125分

監督
マニュエル・ポワリエ
脚本
マニュエル・ポワリエ
ジャン=フランソワ・ゴイエ
撮影
ナラ・ケオ・コサル
音楽
ベルナルド・サンドヴァル
出演
セルジ・ロペス
サッシャ・ブルド
マリー・マテロン
エリザベート・ヴィタリ
セルジュ・リアブキン
preview
 靴のセールスマンのパコはヒッチハイクをしているニノという男を乗せるが、その男に車を盗まれてしまう。パコはそれで仕事もクビになるが、その時助けてくれた女性マリネットに世話になり、偶然ニノを発見、パコがニノに怪我をさせてしまったことでふたりは仲良くなり…
 カンヌ映画祭で審査員賞を受賞したマニュエル・ポワリエ監督のロード・ムービー。いかにもフランス映画らしいテーマと雰囲気がいい。
review

 男と女の出会い、それは偶然の賜物であり、求めればかなうというものではない。色男でもてるパコに嫉妬を抱くニノに対して、パコがフランスのどの街にも最低ひとりはお前のことを気に入る女がいると言う。それは言いえて妙というか、とてもうまい表現だと思う。出会えるかどうかはわからないが、男と女が惹かれあう確率とはそれくらいのものではないかと、なんとなく思える。
 しかし、この確率というのが意外と難しい。色男でもてるパコにしても、色々な女に出会いはするが、映画の前半で明らかになるように恋人にふられたばかりで、今度こそと思ったマリネットにも3週間会わないで気持ちを確かめあおうと告げられる。ニノはなかなか出会えないが、パコは出会ってもそれだけで終わってしまうのだ。だから二人は延々と旅を続ける。本当に落ち着ける場所、本当に一緒にいられる女を捜して。
 これ映画はロードムービーだがロードムービーがほとんどいつもそうであるように、人生の暗喩である。そして、このフランスらしい映画はその人生の中心に男と女の出会いを据える。ニノは旅は哲学だなどというけれど、結局は女を求める旅であり、それはつまり人生を求める旅なのだ。しかし、それならば、それは哲学であるといっても構わないのであり、旅と哲学と人生はどこかで重なり合うのかもしれない。

 私は哲学している映画が好きだ。哲学的な映画ではなくて、哲学する映画が。哲学的な映画というのは人生をこ難しく語ったりして、観客にもその哲学的な事柄を考えさせようとする映画のことだが、「哲学する映画」とは映画そのものが哲学している映画であり、観客はその映画を観、その登場人物たちを見ることによって、それぞれが個人的な哲学的な考えを展開できるような映画のことだ。 私はロードムービーも好きだ。なぜ哲学する映画が好きで、同時にロードムービーも好きなのかということを今まで考えたことはなかったけれど、それは、ロードムービーというのは旅と哲学と人生の重なり合った部分を描くものだからなのではないかとこの映画を観ながら思った。
 旅する主人公たちをみること、それはつまりその主人公達の人生を見ること。それを通じて自分の人生という旅を省みると書くと大げさになるけれど、その旅のテーマとなっているもの(この映画で言えば出会い)について自分なりに哲学することが出来るのではないだろうか。
 つまり、ロードムービーの多くは必然的に「哲学する映画」なのであり、だから私はロードムービーが好きなのかもしれない。そして、その傾向はアメリカ的なロードムービーよりもヨーロッパ的なロードムービーに強い。この映画もそんなヨーロッパ的なロードムービーの類型の一つに入るが、なぜヨーロッパ的なロードムービーのほうが「哲学する」傾向が強いのかといえば、ヨーロッパとは狭い範囲に多くの国があり、多くの民族が暮らしているからではないかと思う。他者との出会いは「哲学する」のに非常にいい機会となる。ヨーロッパを旅するロードムービーは常に他者との出会いであり、他者との出会いによって自分の“旅”を省みる旅となるのだ。
 この映画の主人公ふたりも自称イタリア産ロシア人のニノとカタルーニャ人のパコである。ふたりがフランスを旅するとき、あれらが出会うのは他者たちなのだ。他者たちとの出会いの中で発見する自己、それが旅の果実なのである。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: フランス

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