ごろつき犬
2006/1/13
1965年,日本,90分
- 監督
- 村野鐵太郎
- 脚本
- 藤本義一
- 撮影
- 小林節雄
- 音楽
- 山内正
- 出演
- 田宮二郎
- 水谷良重
- 江波杏子
- 天知茂
- 根上淳
- 山下洵一郎
- 坂本スミ子
- 宮口精二
紀伊半島へとやってきた鴨井大介は金持ちの未亡人という女葉子に拾われる。その葉子は夫が暴力団の一六組に殺されたといい、鴨井にその復讐を頼む。鴨井は復讐には乗り気ではなかったが、様子を見に大阪へ。そこで旧知の木村刑事に声をかけられ、一六組の稲取という男が同僚の刑事を殺したと聞かされる…
田宮二郎の「犬」シリーズの第3作。監督に村野鐵太郎、カメラに小林節雄を迎え、天知茂も再登場して、1作目を凌ぐスリリングな出来に。
第2作の『喧嘩犬』はあんまりだったが、その反省からかこの第3作では第1作で田宮二郎と名コンビを見せた天知茂を再登場させ、さらに二人の絡みの場面を増やし、完全にコンビという感じになってきている。このふたりの関係はとてもいい。田宮二郎といえば「悪名」シリーズで勝新太郎とコンビを組んで名をあげた。「悪名」もふたりは固定でヒロインに当たる女たちが作品ごとに登場するという形を取っていて、結局この「犬」シリーズもそのようなパターンに落ち着いたという感じもする。女とハジキに目がない鴨井大介が各作品ごとに一人の女と関係する(この作品ではふたりだが)。それによって、ボンド・ガールのようにいろいろな女優を使うことが出来るというのもシリーズとしてはおいしい。
日本映画のシリーズものには『男はつらいよ』のマドンナを始めとして、1作ずつ違う女優がでてくるという形式のものが多い。日活は裕次郎と北原三枝のようにコンビで売り出したが、大映や松竹はこのような形式をとることが多かったのかもしれない。
さて、この作品だが、プロットはたいしたことがなく展開はそれほど意外なものでもないのだが、シナリオはとてもいい。プロットとなる物語の筋よりもむしろ瑣末な細部が非常におもしろく、それを鴨井大介を演じる田宮二郎が非常にうまくまわしているという印象だ。鴨居というキャラクターは見ようによっては軽薄とも取れるが、実は人情に厚い。「とっぽい魅力」という言葉がキャッチフレーズのようにこのシリーズと田宮二郎に貼り付けられているが、とっぽいというよりはスマートだけれどどこか抜けている親しみやすいキャラクターという感じだ。 その鴨井を見ていれば、観客は物語にスッとは行って行けるし、鴨井と一緒に一喜一憂でき、しかも鴨井の抜けた部分をハハハと笑うことも出来る。そのように観客を映画の世界に引き込みつつ、あくまでも娯楽作品として気楽に見られるようにしているところがとてもいいと思う。
名作として歴史に残る作品ではないが、今見ても十分に楽しめる。アクション映画としてはアクション自体がとっぽいが、そのとっぽい感じが、リアルというか、垢抜けなくていい。これ見よがしに田宮二郎が見せる拳銃の早業もなんだかスローモーションを見ているようだし、映画の途中で見せるさいころのトリックも編集部分がミエミエなのだ。でも、それもまたこの映画の魅力なのだ。
椅子の詰め物がはみ出たような名画座で、こんな作品を無心に楽しむ。そんな休日がたまに送れたら幸せだろうなと思わせる、娯楽映画の秀作だ。
この「犬」シリーズの作品はまだ全部見ていないが、シリーズの中でも一番かもしれないという予感がする。もうひとつ面白そうなのは『鉄砲犬』で、これも天知茂が登場し、監督は村野鐵太郎、撮影は小林節雄。作品数9本の比較的短いシリーズだが、なかなか楽しめる。