社長忍法帖
2006/1/17
1965年,日本,95分
- 監督
- 松林宗恵
- 脚本
- 笠原良三
- 撮影
- 鈴木斌
- 音楽
- 神津善行
- 出演
- 森繁久彌
- 小林桂樹
- 司葉子
- 加東大介
- 三木のり平
- フランキー堺
- 久慈あさみ
- 池内淳子
- 新珠三千代
- 団令子
- 東野英治郎
岩戸建設の技術部長石川の妻に赤ちゃんが出来、社長の奥さんに相談に行くという。会社には北海道営業所長の毛馬内がやってきていて、ライバル企業東西組と競合する案件が持ち上がる。社長は取締役の富樫と札幌に行くことに…
いつものメンバーでいつものドタバタで展開される社長シリーズの27作目?でもやっぱりなぜかおもしろい。
社長シリーズの作品はどれもそうだが、この作品もまったくたいした作品ではない。森繁久彌演じる社長、加東大介演じる重役、小林桂樹演じる社員(今回は部長)がドタバタ劇を演じ、今回はもう一人に三木のり平がいる。小林桂樹の妻役はいつものように司葉子で、何度目かわからない妊娠をする。会社のネタと夫婦のネタがまぜこぜになって展開され、森繁久彌はいつものように浮気の試みに失敗する。
いつものようにこんなだが、意外にこの作品はプロットがしっかりしている。小林桂樹が技術屋として技術屋の良心を説き、東野英治郎演じる交渉相手の社長に突っぱねられた経営者の苦心を説く。その関係がどう転んで最後にうまいところに収まるのか、そこは意外とおもしろい。そして、森繁久彌だけでなく、小林桂樹にも少々の浮気心が浮かぶのがおもしろい。奥さんが司葉子じゃ浮気するということに説得力がないが、妊娠したために「しばらくお預け」という設定があり、単身北海道に行くということになって浮気の準備が整うわけだ。
社長シリーズはいつも妻たちの物語でもあるが、この作品もその例に漏れない。高度成長期の日本で、男たちは企業戦士として戦い、女たちは専業主婦として夫を支えた。現実はそんなに単純ではなかったことはわかるが、この社長シリーズに登場するような企業の上のほうの人たちの間ではそのようであったのだろう。この会社はあまりにのどかという気もするが、当時の企業戦士たちの憧れがこんな生活にあったのではないか。憧れの生活をしている人々も自分たちのようなドジもするし、バカもする。それなら、自分たちだっていつかはあんな生活を送れるかもしれない。そんな小市民の夢をかきたてもするのがこのシリーズだったのかもしれない。
そして、この作品ではこれみよがしにギャグを連発する三木のり平よりも、いつものように芸達者なところを見せるフランキー堺よりも、地味に笑いを振りまく加東大介がいい味を出している。社長シリーズではいつもかなり地味で印象に残りにくいが、それでもいつも出ているのは、この作品のように効果的な役を演じることが出来るからだろう。
脇役として出演する人たちを懐かしく見るというのも、いまこの社長シリーズを見る楽しみの一つである。加東大介も、フランキー堺も、三木のり平も、東野英治郎ももう亡くなってしまった。日本映画の黄金期のシリーズものの多くは昭和らしさを存分にもっていて、ノスタルジーの対象になる。たいした作品ではないのだが、(たとえ実際に経験したことはなくても)ノスタルジーを感じながらそれをついた意見すると、何かほっこりとした気持ちになる。現在の昭和ブームの正体はこのほっこり感であり、その意味ではこの作品などは非常に昭和的な作品と言える。