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カビリアの夜

2006/4/2
Le Notti di Cabiria
1957年,イタリア,111分

監督
フェデリコ・フェリーニ
脚本
フェデリコ・フェリーニ
エンニオ・フライアーノ
トゥリオ・ピネッリ
撮影
アルド・トンティ
音楽
ニーノ・ロータ
出演
ジュリエッタ・マシーナ
フランソワ・ペリエ
アメデオ・ナザーリ
アルド・シルヴァーニ
ドリアン・グレイ
preview
 ローマ郊外アッピア街道沿いに住む売春婦のカビリアは恋人に川に突き落とされ、男は3万リラの入ったバックを持っていなくなってしまう。売春婦仲間のワンダには呆れられ、不幸続きだったが、ある夜、恋人と喧嘩した映画スターのラッツォーリに声をかけられる…
 ジュリエッタ・マシーナが哀しき売春婦カビリアを演じた『道』と対を成すドラマ。「スイート・チャリティ」の名でブロードウェイ・ミュージカルとなり、映画化もされた。
review

 このカビリアというキャラクターはすでに『白い酋長』に少しだけ登場している。主人公がさ迷い歩く夜のローマで出会う売春婦の一人で、大道芸人の火吹き男の芸に手を叩いて悦ぶのだ。
 そしてまた、このカビリアは構想段階で「ジェルソミーナの堕ちた妹」と表現されていたことからもわかるように、『道』のジェルソミーナと対を成すキャラクターとして設定されている。ジェルソミーナが旅芸人に売られたのに対し、このカビリアは売春宿に売られたわけだ。そしてふたりともどこか白痴的な部分を持っている。明確に白痴的といえるのはジェルソミーナのほうだが、このカビリアも純粋な心を持つ人間だ。
 その2人の共通点は「人を信じすぎてしまうこと」であり、その点ではカビリアのほうがジェルソミーナよりもより純粋である。売春婦として世間ずれしているはずなのに彼女は、いつまでも人を信じ続け、だまされる。冒頭のエピソードが一緒に暮らしていた男に3万リラという金のために川に突き落とされて溺れそうになり、それにもかかわらず、何かの間違いだと思って男を信じようとするというエピソードであるというのがこの作品を象徴している。
 だから観客はカビリアが男と出会うたびに「まただまされる」という予感をもって見てしまう。中途で出会う人気スターのラッツォーリ、そして後半で出会うオスカー、観客は結末を予想しながら、そうなって欲しくはないという切実な想いをもってカビリアの行く末を見つめてしまう。
 それがこの映画のおもしろいところであり、ついつい観客が引き込まれてしまう部分である。

 さて、この映画にも、他のフェリーニ作品にも登場するエッセンスがまたしても見られる。一つはキリスト教、カビリアはご利益があるというマリア信仰の協会に松葉杖の男とワンダについていき、一生懸命に足を洗えるようにお願いする。そして、すぐにその後利益が表れないことに憤る。これが直接にキリスト教に対する批判ということにはもちろんならないが、宗教全体に対する疑念を示してはいるように見える。宗教というものの実態がここに表れているのだ。それは集団的熱狂に過ぎないと同時に、本当に信じる者(映画の中途に登場する修道僧)にとってはまったくの真実であるということである。フェリーニはそのような宗教の持つ二面性、複雑さに惹かれながら、どこか疑念を抱いているように思える。
 そしてもうひとつが、『道』との共通項として表れる“母”という要素である。ジェルソミーナもカビリアも母親に売られたわけだが、ふたりともその母親を恨むことはなく、逆に焦がれているように見える。そして父親は不在なのである。これは果たして何を意味するのか。フェリーニの作品の多くは父性よりも母性がテーマとして頻出するわけだが、それがどのような意味を持つのかは私にはまだわからない。電気的なことを言えば、フェリーニと父が疎遠だったことは確かだが、実際のところフェリーニはあまり家族というものに興味がなかったようでもある。だからことさらに“母”ばかりを問題にする理由がそこにあるとも思えない。だからそこにはフェリーニなりの何らかの考え、あるいは霊感があるのだろうとは思うが、それはなんなのだろうか。
 もちろんフェリーニの取り上げるエピソードのそれぞれに意味があると考えるのも不毛なことであるのかもしれないとも思う。それは単なる一要素に過ぎないのかもしれないからだ。しかし、それでも、くり返し登場する要素について考えてしまうのが、フェリーニの映画の不思議な魅力のひとつなのである。最後まで理解出来ないという予感を持ちつつ、次から次へとフェリーニの作品を見て、考えてしまうのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: イタリア

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