ジョゼと虎と魚たち
2006/4/30
2003年,日本,116分
- 監督
- 犬童一心
- 原作
- 田辺聖子
- 脚本
- 渡辺あや
- 撮影
- 蔦井孝洋
- 音楽
- くるり
- 出演
- 妻夫木聡
- 池脇千鶴
- 上野樹里
- 新井浩文
- 新屋英子
- 江口徳子
- 藤沢大悟
- 板尾創路
- 大倉孝二
麻雀店でアルバイトをする大学生の恒夫は、店長の犬を散歩しているところでうわさに聞いた乳母車を押して散歩する老婆を見かける。老婆の手を離れてガードレールにぶつかったその乳母車の中を見ると、そこには一人の少女がいた…
田辺聖子の原作を犬童一心が映画化。池脇千鶴のヌードで話題になったが、作品としてもそれなりしっかりしている。
話としてはたいしたことはない。原作を考えると、今ほど障害者に対する理解が進んでいなかった時代に、障害者と健常者が恋をしたという話であり、そこには偏見と卑下が存在する。そして、中心の二人に影響を与える二人の登場人物(香苗とおばあ)がその偏見と卑下を象徴しているというあたりは、物語の組み立て方としては非常にオーソドックスである。オーソドックスであるだけにわかりやすくはあるが、意外な展開というのはあまりなく、大体予想通りに話は展開されていくのだ。
そのような普通の話の中で、異彩を放ち、かつこの映画を面白くしているのは池脇千鶴演じるジョゼのキャラクターである。おばあに“こわれもの”と言われ続けながら(いつからかはわからないが)育ったくみ子はいつからか自分を大好きなサガンの小説の主人公ジョゼと重ねあわせ、夢想の中に現実とは別の人生を作り上げていった。しかし、同時に彼女は現実を厳しく見つめてもいて、それが複雑だが魅力的な彼女の態度を生み出す。つっけんどんだがやさしさがあり、威圧的だがユーモアがある。その彼女のキャラクターによって笑いが生まれ、見るものにさまざまな感情を呼び起こし、映画が楽しくなる。
時に彼女の現実を知らないキャラクターがステレオタイプにはまることがあり、それは少々辟易だが、彼女が普通の私たちから見れば突拍子もない行動をとるのは面白く、ほほえましい。おばあが拾ってきた本だけから知識を積み重ねた彼女が突然「“トカレフ”って買えんのか?」と聞いたりするその瞬間はすごく面白い。
それ以外でも時折面白いギャグがはさまれはするけれど(恒夫の弟の彼女とか)、ほとんどはこのジョゼのキャラクターに起因するといっていい。並んで主役の妻夫木演じる恒夫も語り手であるだけで、映画の上ではあくまでも準主役、ジョゼの引き立て役に過ぎない。そして、上野樹里も、池脇千鶴のヌードもどうしても必要な要素ではない。
ただ、この池脇千鶴のヌードには犬童一心という監督(と映画会社)の戦略的な巧妙さがあるように思える。池脇千鶴がヌードになるといえば、話題になり客が集まる。客が集まり収益が上がらなければ、見られることも評価されることもないのだから、商業映画にとって話題性というのは実に重要な要素なのだ。だから、この「池脇千鶴のヌード」というウリはこの映画にとって非常に重要だった。そして、この映画はヌードだけが売りになってしまわないだけの質の高さが伴っていたから、さらにいい。池脇千鶴はヌードによってではなく演技によって評価を得て(日本映画プロフェッショナル大賞で主演女優賞を受賞した)、女優としてひとつステップアップしたように見える。
犬童監督はこれ以前もこれ以後も玉石混交という感じでさまざまな作品を監督しているが、『メゾン・ド・ヒミコ』でまた評価を得た。この作品でも関西弁をはじめとする言葉の使い方が適当で、細部の詰めの甘さというか、リアリティの追求がおざなりという気はするが、玉石混交で映画を量産するところは、職人っぽくて好きだ。この春もTVで放送された『愛と死をみつめて』を監督し、評判はなかなかよかったようだ(私は見ていないが)。3本か4本に1本くらい面白い映画を作れれば、それで十分に名監督となれるのだから。