イン・ザ・プール
2006/6/19
2005年,日本,101分
- 監督
- 三木聡
- 原作
- 奥田英朗
- 脚本
- 三木聡
- 撮影
- 小林元
- 音楽
- 坂口修
- 出演
- 松尾スズキ
- オダギリジョー
- 市川実和子
- 田辺誠一
- ふせえり
- きたろう
- MAIKO
- 森本レオ
3日も勃起がおさまらない田口哲也は泌尿器科に行くが、心因性と診断され、地下の神経科に行けといわれる。そこで待って居たのはふざけた精神科医・伊良部一郎と無愛想な看護婦だった。また、エリートビジネスマンの大森はストレス解消のために毎日プールに行かなければいられないという悩みを抱え、ルポライターの岩村は強度の心配性に陥っていた…
『亀は意外と速く泳ぐ』の三木聡が役者としての活躍目覚しい松尾スズキを主演に迎えたシュールなコメディ。非常に雰囲気がよく、楽しく見ることが出来る。
三木聡というひとはシティ・ボーイズのライブの作・演出などをしていたらしいから、どこかシュールというか外した笑いを得意とするしているのだろう。この作品にもシティ・ボーイズのきたろうが出演しているが、彼の持つ“間”に三木聡の笑いのパターンが見える。
松尾スズキも基本的にはオフビートの笑いを作り出す役者であり、そのテンポを外した笑いに松尾スズキは非常にあっている。そして脇役だがふせえりもその世界に非常にピタリとはまる。この2人が絡むのはほんの数分だが、そこにこの作品のエッセンスが凝縮されていたような気がした。
こういったオフビートの笑いというのは説明しようとすればするほど虚しくなってくるので、これ以上説明することはしないが、いわゆる「お約束」の爆笑系の笑いではないコメディが好きな人は見て損はないとだけ言っておこう。
さて、これはコメディ作品であり、笑わせることがメインだとは思うのだが、ストレスと精神病という現代社会の問題(と言うとおおげさだが、現代社会では誰しもが抱えているちょっとした厄介)をそつなく描いてもいる。
オダギリジョーの“継続性勃起症”というのは笑いのために用意されたという感が強いが、他の2人については、日常的にありえる話という気がする。市川実和子が陥る“強迫神経症”は誰もが経験する日常のちょっとした心配事から逃れられなくなってしまう神経症なわけで、これはどこか引っかかるところがある人も多いはず。そして、田辺誠一の“プール依存症”というのが一番現代的であるように思える。このストレス社会において誰しもが何かに依存している、それが麻薬とかアルコールとかだと病気だとわかりやすいし、甘いものだとか、カフェインだとかだと、体に悪いからやめようという気にもなる。しかし、この例みたいにプールだとか、ジョギングだとか、健康にもよさそうなものだと、それに依存して何が悪いという感じになってしまう。しかしやはり何かに依存するというのはどこか精神のバランスが崩れているということである。現代社会を生き抜くためにはそれでいいとするのか、それともそのようなストレスから根本的の逃れようとするのか、それが現代社会の一番の問題であると思う。
もちろん、この映画はそんなことをわれわれに問いかけているわけではない。でも、ただ笑うだけでは済まず、なにか引っかかるものがあるなら、自分のどこかにそのようなトラブルが潜在的に存在しているということだろう。そんなときに、この伊良部一郎のようなテキトーな精神科医がいたら逆に救われるのかもしれない。
ただのコメディのようで以外に含蓄があるこの映画、原作もおもしろいかもしれないなー