エスパイ
2006/7/7
1974年,日本,94分
- 監督
- 福田純
- 原作
- 小松左京
- 脚本
- 小川英
- 撮影
- 上田正治
- 音楽
- 村木忍
- 出演
- 藤岡弘
- 由美かおる
- 草刈正雄
- 加山雄三
- 若山富三郎
- 岡田英次
レーサーの三木はテスト走行中に事故を起こしそうになるが車が不思議な動きをして助かる。それを見ていた男女に呼ばれた三木は超能力の才能があるといわれ国連の秘密組織である“エスパイ”で働くことを持ちかけられる。エスパイはバルトニアの首相暗殺を巡って“逆エスパイ”と激しい戦いを繰り広げていた…
小松左京の原作をゴジラシリーズなどで知られる福田純が映画化。なんとも安っぽいつくりで原作がかわいそう。
藤岡弘が出ているからというわけではないと思うが、どうも全体的に仮面ライダーのノリという感じがする。そのような雰囲気をかもし出すのはやはりセットやロケーションの安っぽさと映像の処理の仕方だろう。
飛行機がどこから見ても模型なのはご愛嬌としても、ロケ撮影のときの風景がどうもしっくりこない。一生懸命にトルコとかスイスとか説明を出して説得しようとするのだが、果たして本当に外国なのかと疑いたくなるような景色ばかりが続く。映像の処理のほうは無難といえば無難だが、大げさにやりすぎた感は否めない。由美かおるの口元のものすごいクロースアップとか、イヤリングで催眠術をかける下りとかいった辺りでは違和感を感じる。
そして、さらに問題なのはテンポの悪さである。まず、全体のテンポが悪い。テンポが悪いというよりはあまりにペースが平板すぎると言ったほうがいいのかもしれないが、映画全体としての盛り上がりどころがわかりにくいのだ。物語は進むが、それはなんとなく進んでいるだけで、クライマックスに向かって盛り上がって行くというものではない。だからふとした瞬間に退屈さがにじみ出て映画を見続けるのが苦痛にもなる。
そして、アクションシーンのテンポの悪さも致命的だ。もちろん現在のCGやらワイヤーやらを駆使したアクションシーンと比べて遅いのは当然だが、同時代の作品と比べてもこの作品のアクションシーンのテンポは遅く、しかも悪い。そのせいでアクションシーンにはまったく迫力がなく、人がどたどたと走ってピストルの弾がピューンピューンと飛び交うだけに終わってしまうのだ。細かい部分を言えば、一人の人間を殺すのに3台のショベルカーを使うという発想もわけがわからない。これはある意味ではすごいし、ついつい笑ってしまう(失笑)場合もあるが、「どう考えてもこんなことしないだろ~」というツッコミを入れたくなる場面の中でも一番であることは間違いない。
この映画が救われている点をあげるとしたら、出演している役者たちをあげるほかないだろう。ともかく濃い顔、濃いキャラクターの役者たちがそろったこの映画、藤岡弘、草刈正雄、若山富三郎、などなどの濃い演技を見るというのはひとつ楽しみ方ではある。 さすがに映画を作る側もこの映画のひどさを認識していたということなのかもしれないが、由美かおるのヌードも披露される。由美かおるはこの作品で衣装も担当していてかなり意欲的という印象だが、いかんせん作品に恵まれなかった。しかも彼女がデザインしたと思われる彼女自身の衣装はまったく奇妙で、映画の世界から浮いていた。
原作は結構おもしろかったような気がするのだが、映画はまったくひどい。小松左京はこれで納得したのだろうか…