壁の中に誰かがいる
2006/7/14
The People under the Stairs
1991年,アメリカ,102分
- 監督
- ウェス・クレイヴン
- 脚本
- ウェス・クレイヴン
- 撮影
- サンディ・シセル
- 音楽
- ドン・ピーク
- 出演
- ブランドン・アダムス
- エヴェレット・マッギル
- ウェンディ・ロビー
- A・J・ランガー
- ヴィング・レイムス
12歳の少年フールは病気の母と妊娠している姉と暮らしていたが、家賃の滞納で立ち退きを迫られる。何とか金を手に入れようと考えたフールは姉の反対を押しきって泥棒に手を貸すことに。しかし、泥棒に入った大家の家は異常な屋敷だった…
『エルム街の悪夢』のウェス・クレイヴンが手がけたB級ホラー。異常な大家夫婦を演じるエヴェレット・マッギルとウェンディ・ロビーは『ツイン・ピークス』でも夫婦を演じていた。
異常な2人が異常な屋敷に住み、そこに入り込んでしまった少年が恐怖の体験をするというホラー映画だが、その設定はかなりすごい。まずは、物語が展開を見せる前にその屋敷の娘アリスが“壁の中の人”に食べ物をあげており、しかも母親はそのことを知っているのだ。“壁の中の人”っていったいなんだ? 題名が『壁の中に誰かがいる』というだけに「誰か」がいるのだろうが、それは人なのか、ゾンビなのか、何なのか、まったくわからない。
そして、物語が展開し始めると、地下室の奥の隔てられたところにゾンビだか人だかわからないようなものがたくさんいる。原題は“The People under the Stairs”つまり「地下室の人々」だから、ホラー映画としてはこの人々が恐怖の源泉であるということを宣言しているということになりそうだ。そして、彼らがいったい何者なのかという謎解きがまず観客の興味を引く。
しかし、実際に恐怖の源泉になるのは異常な夫婦であり、彼らの異常さこそが映画の中心になる。そして、その彼らがともかくおかしいのである。これだけ異常な人を描くことが出来るというのも一種の才能だと思うが、はっきり言ってついていけない部分も多い。この作品の監督ウェス・クレイヴンはデビューから鳴かず飛ばずの10年を過ごした後84年に『エルム街の悪夢』でホラー映画の大物の仲間入りをするが、その後低迷するが96年の『スクリーム』で復活、最近は『ミュージック・オブ・ハート』なんていう感動ものも撮っている。ということは、この作品はウェス・クレイヴンの低迷期の作品ということになるが、この映画の異常さを見ていると低迷期というよりは変化の時代なのだという気がする。
『エルム街の悪夢』から『スクリーム』へ。それは過剰さを身につける過程だったのではないか。『エルム街の悪夢』はある意味ではすごくまっとうなホラー映画である。観客に恐怖を与えるためにありとあらゆる手段を講じ、人気者のキャラクターも生み出した。しかし『スクリーム』はホラーであることをこえて笑いすら生み出してしまうまでに過剰なのである。ホラーの恐ろしさとはそもそも極端なものであり、それは失笑と常に隣り合わせのものであった。そして、その傾向はホラーというジャンルが熟成してゆくにつれて強まり、いまやハリウッド製のホラーというのはほとんどがコメディのような作品である(だからこそ純粋に怖い日本製のホラーが脚光を浴びる)。
この作品は、ウェス・クレイヴンがその過剰さを身につけているか体の作品であり、その恐怖が笑いと紙一重であるということは奇妙な夫婦や地下室の人々に見事に表れている。
だから、理不尽な怖さはあるにしろ身がすくむほどに恐ろしいわけではないし、おかしいとは思うけれど笑うほどではない。そんな中途半端な作品になってしまっているといえるのではないか。しかし、これはこれでいいのではないかとも思う。
この作品には人間臭さがある。人間離れした怪物の恐ろしさではないマヌケな人間臭さ、それがこの作品の味になり、おかしさになっている。だから最終的にこの奇妙な夫婦は死ななくてもよかったのではないかとも思う。マヌケ面を世間にさらして辱めを受ける。そうすればシリーズにもできたし…