ライフ・アクアティック
2006/7/28
The Life Aquatic with Steve Zissou
2005年,アメリカ,118分
- 監督
- ウェス・アンダーソン
- 脚本
- ウェス・アンダーソン
- ノア・ボーンバッハ
- 撮影
- ロバート・D・イェーマン
- 音楽
- マーク・マザースボウ
- 出演
- ビル・マーレイ
- オーウェル・ウィルソン
- ケイト・ブランシェット
- アンジェリカ・ヒューストン
- ウィレム・デフォー
- ジェフ・ゴールドブラム
- セウ・ジョルジ
海洋ドキュメンタリーを撮り続ける探検家で映画監督のスティーヴ・ジィスーは新作の『ジャガーザメ』の撮影中に親友を失うが、映画の評判は散々。スティーヴは自作に意欲を燃やすが、そこに息子と名乗る青年ネッドが現れる…
鬼才ウェス・アンダーソンが撮った奇妙なコメディ。全編にちりばめられるデヴィッド・ボウイのボサノバ(?)カバーがとてもいい。
CGで作り上げられた極彩色の海の風景、物語の中心ともなるジャガーザメをはじめとして様々な架空の海の生物がCGによって作り上げられている。その映像は奇妙だけれど、どこか不思議な楽しさに満ちている。パーティー会場で少年がスティーヴにプレゼントする“クレヨン・タツノオトシゴ”などを見れば、そのCGの(不必要なほどの)徹底ぶりがすごいということがわかる。
物語のほうはといえば、相変わらずのウェス・アンダーソン節と言えばいいのか、オフビートで退屈にすら感じさせるテンポの悪さを維持したまま物語は淡々とすすんで行く。しかし、その中で決していい人間ではないがなぜか憎めないスティーヴのキャラクターや彼と周囲の人間との不思議な関係がなかなかうまく描かれている。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の時もそうだったが、この監督は表面には表れない人と人との間の結びつきを描くのがうまいのだと思う。スティーヴと息子だと名乗ってきたネッドとの関係はギクシャクしたもののようにも見えるが、それぞれが相手に対して複雑な感情を抱えており、それがスムーズなコミュニケーションを阻害しているのだということがよく見える。そしてもちろんそれにもかかわらずふたりは互いのことを求めているのであり、相手を理解したいと思っているのだということもわかるのだ。
その関係はスティーヴと妻のエレノアとの間にも言える。感情を表に表さないエレノアだが、その感情はスクリーンを通じてわれわれに伝わってくる。そして、そのためにこの映画には間がたくさん有るのだろう。無言の“間”の間に観客は登場人物たちの感情を汲み取って、それを物語りに織り込んで行くのだ。それがうまく行けば観客は映画の世界に入り込み、この世界に浸ることができる。
しかし、必ずしもそれがうまく行くわけではないということも確かだ。うまく映画の世界に入れなかった観客はテンポの悪さに退屈し、うっかりすると居眠りしてしまうかもしれない。この映画の独特の世界はそんな両極端の反応を引き出すのではないか。
でもまあ、この作品を見ようという人は基本的にはウェス・アンダーソンの世界を受け入れている人だろうから、それほど退屈することはないのではないか。音楽のおもしろさもそれを助けて、映画の世界に入り込めなかったとしても、ゆっくりとした時間を味わうことが出来るのではないかと思う。