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世界大戦争

★★★1/2星

2006/7/28
1961年,日本,110分

監督
松林宗恵
脚本
八住利雄
木村武
撮影
西垣六郎
音楽
團伊玖磨
出演
フランキー堺
乙羽信子
星由里子
宝田明
笠智衆
白川由美
中北千枝子
東野英治郎
山村聡
上原謙
河津清三郎
中村伸郎
preview
 東京の郊外に住む田村家では、ようやく生活に余裕もでき、ささやかな幸せを味わっていた。しかし、新聞記者の運転手をする田村茂吉は連合国と同盟国の間が緊迫しているという話を聞き、茂吉の家に居候する高野も船の上で怪しげな光を見る…
  戦争と核兵器を怖れる戦後日本人の心を円谷英二の特撮を使って見事に描いた力作。豪華キャストを起用し、娯楽映画でありながら社会派の映画でも有るという感じに仕上げた。
review

 1961年、日本は平和を取り戻していたが、キューバ危機に表れる第三次世界大戦の危機、そしてビキニ環礁に現れる水爆の恐怖は人々に必ずしもこの平和がゆるぎないものではないという不安を与えるに十分だった。
  16年という時間は長いようでいて実は短い。この物語の主人公である田村茂吉はおそらく復員兵だろうし、乙羽信子演じるその妻は幼い娘を連れて焼け野原となった東京をさまよったのだろう。さらには広島で家族をみななくした焼き芋屋さんというのも登場する。小さな子供たちはもちろん戦争を知らないが、まだまだ戦争の恐怖を実体験として持つ人々が世の大半を占める時代だったことは明らかだ。
  そんな時代の人々を描いたこの映画が投げかけるのは、原水爆の恐怖と戦争への口惜しさである。そしてそのどちらもが非常に生理的なものである。理性的に原水爆はいけないとか、戦争はいけないと言っているのではなく、生理的にそれを拒否しているのだ。原水爆が使用されること、そして戦争が再び始まること、それらの事態が現実味を帯びると、頭で考える前に体がそれに対し恐怖を覚え、反応してしまう。人々はパニックに陥り逃げ惑う。
  この映画は今見ると戦争や原水爆に反対している映画で有るように見える。しかし、それはそのことを理性的に見られる私たちが見るからであって、現実にはこの映画は戦争や原水爆の恐怖を描いた映画に過ぎない。
  そして、原水爆に反対することを主眼に作られた映画ではなく、その恐怖を表現することを主眼に作られた映画であることによって、人々はそれに反対することになるのだ。

 そして、その恐怖の演出に円谷英二は効果的な役割を果たしている。もちろん、その技術は初歩的なもので、どう見ても模型であったり(東京やニューヨークが本物の映像なのに、モスクワがどこから見ても模型というのも東西冷戦の影響か)、爆発の表現にリアルさを欠いていることは確かだが、それでも人々の想像力を刺激するのに十分な光景を作り出していると思う。特に日本人は東京大空襲や広島・長崎の原爆によって焼け野原となった都市に対する映像を既に持っているから、そこから恐怖を引き出すのは比較的たやすいはずで、それをうまく使ったりもしている。
  その恐怖の演出によって、恐怖に捕らえられた人々が何を考えどう行動するのかを描く、それは観ている側にとっても戦場を描いた戦争映画よりもはるかに恐怖を覚えさせられるものである。戦場というのはどこか非日常の感覚を伴うが、この映画はまさに日常の中に戦争が入り込んだ瞬間を描いているのだ。
  そして、そのような恐怖は今も世界のいたるところに存在し続けている。それを想像すると、なぜその戦争がやまないのかまったく理解できない。なぜ人々はその恐怖を他の人たちに味わせることに平気になれるのか。このような映画を見ることはそのような想像力を維持し、戦争にリアルな恐怖を感じ続けるために必要な映画なのではないか。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本60~80年代

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