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ベストセラー

ポセイドン

★★★星星

2006/8/27
Poseidon
2006年,アメリカ,98分

監督
ウォルフガング・ペーターゼン
原作
ポール・ギャリコ
脚本
マーク・プロトセヴィッチ
撮影
ジョン・シール
音楽
クラウス・バデルト
出演
カート・ラッセル
ジョシュ・ルーカス
ジャシンダ・バレット
リチャード・ドレイファス
ジミー・ベネット
エミー・ロッサム
preview
 豪華客船ポセイドン号は新年の瞬間を迎えようとし、乗客たちはホールに集まってパーティーの真っ最中だった。その時、超巨大波と呼ばれる大波に襲われポセイドン号は転覆してしまう。完全にひっくり返った船の中で乗客たちは船長の言葉に従って、そこで助けを待つことにするが、ギャンブラーのラムジーらはその言葉に従わず、自ら脱出方法を探そうと上へ向かう…
  パニック映画の古典のひとつ72年の『ポセンドン・アドベンチャー』のリメイク。ダイナミックな仕掛けが有無を言わさず観客を巻き込んでいく。
review

 この元である『ポセイドン・アドベンチャー』が作られた頃、パニック映画というのはまだ新しいジャンルだった。今ではほぼ同時期(74年)に作られた『タワーリング・インフェルノ』とともにある種の古典となり、パニック映画は考えられる限りのあらゆる方法が使われたといってもいい。その中で、このリメイク作品ということで、あまり期待はできないところだが、この作品はいいほうに期待を裏切る。30年間に積み上げられてきたパニック映画の本道からはあえて外れていわゆるB級映画的なつくりにすることで、映画を救ったのである。
  この作品がいわゆる超大作のパニック映画と決定的に違うのは、根本的に“ヒューマニティ”が欠如しており、ヒーローが存在しないという点である。普通パニック映画というと、パニック状況に巻き込まれた中で、主人公となる普通の人がヒーローとなって多くの人を救うという物語になりがちである。そしてこの作品でもラムジーはそんなヒーローになりそうな存在として表れる。
  しかし、実はそうではない。彼はただ自分が生き残るために奮闘する。たしかに仲間となった数人の人たちは命をかけて救おうとするが、それは彼がヒーローであるからではなく、個人的に彼らと親しくなり、ある種の仲間意識を持つようになったからである。だから、それ以外の人間はあっさりと切り捨てる。
  なんと言っても象徴的なのは、映画の序盤のエレベーターのシーンである。ここで一行の一人リチャードと案内役の船員がエレベータ・シャフトに宙刷りになるのだが、ラムジーはためらわず、船員を蹴落とせとリチャードに言う。リチャードは感情を押し殺して船員を蹴落とす。このシーンはつらいシーンであり、もしラムジーがヒーローであり、“ヒューマニティ”を体現する人物であったら、このことは大きなトラウマとあるはずである。しかし、この後この事件はまったく言及されることなく、リチャードも(直後はつらそうな顔を見えるものの)心の傷を負ったようには見えない。
  このあまりにあっけらかんとした人の切り捨て方がこの映画をいわゆるパニック映画との違いを生み、映画に勢いを生んでいる。このことによって観客はなにを考える暇もない、本当のパニック状況に彼らがあるということを理解し、そこにリアリティを感じるのだ。
  そして、個人という単位ではない多数の人の死もこの映画はこともなげに扱う。感電や火事やさまざまな悲劇により、たくさんの人が一気に死に、それがかなり克明に描かれるのだが、その死には何の意味もない。その描かれ方はなかなかリアルなのだが、そこに目を背けたくなるような悲劇性がないのだ。それは生き残ろうとする彼らとコントラストを描く対象でしかない。
  これを見ながら思い出したのはジョン・カーペンターの『ゴースト・オブ・マーズ』である。この作品は火星に行った主人公たちが人間の姿をした火星先住民族の亡霊たちと戦う話で、とにかくこの亡霊をばったばったとなぎ倒していく大量殺戮の映画なのだが、それが痛快なのである。それはその対象が完全にヒューマニティの輪から切り捨てられているからである。それは『スターシップ・トゥルーパーズ』の虫宇宙人を殺すのと似ている。人の姿をしたものを殺して痛快というのはあとから振り返ると気持ち悪いものだが、映画を見ている瞬間には、それにためらいがないのである。いい悪いは別にしてそのようにして観客を引き込む力がこの演出にはあり、この『ポセイドン』もそのような作品になっているのだ。
  だから、スカッとしたいときに深く考えようとせずに観るには非常にいい。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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