ニライカナイからの手紙
2006/9/14
2005年,日本,113分
- 監督
- 熊澤尚人
- 脚本
- 熊澤尚人
- 撮影
- 藤井昌之
- 音楽
- 中西長谷雄
- 出演
- 蒼井優
- 平良進
- 南果歩
- 金井勇太
- かわい瞳
- 比嘉愛未
竹富島に暮らす風希は6歳のときに母が島を去って東京に行き、カメラマンの父は早くに亡くし、おじいと二人暮し。年に一度誕生日に来る母の手紙を支えに頑張っていた。そして、高校を卒業した風希はおじいの強い反対を押し切って東京にカメラマンの勉強をしに行くことを決意する…
石垣島に程近い離島、竹富島を舞台にしたヒューマン・ドラマ。どうも映画の構成の仕方がうまくないのが残念。
この映画はいったい何を描きたかったのか。出来上がった映画を見てみるとただ観客を泣かせるためだけに作られた映画にしか見えない。感動するというよりは観客がもらい泣きするためのさまざまな設定を用い、最終的に“泣き”にスポットを当てる。それで観客が泣くのは当たり前で、それで映画が面白いということにはならない。そしてさらに言えばその“泣き”のシーンが長すぎて、せっかくもらい泣きした観客もどこかでさめてしまうのではないかと思う。そんな“泣き”のシーンに向けてだけ作られた映画だとしたら、それはあまりにも悲しい。
物語としては、少女の成長物語と考えるのが自然だ。一人の少女が年に一度手紙だけを送ってくる母親と、頑固だが暖かい祖父に支えられ、同じ島の仲間にも助けられて成長していく。そんな物語なのだろうと。しかし、そのような物語にしてはこの主人公の風希の心理や生活の描写があまりに少なすぎる。風希が写真を撮るようになったことや、写真家になるという夢と島の生活との間の選択という葛藤、同じ島の人たちとの関係、それらが描かれている場面があまりに少ないのだ。それが描かれていれば物語にもう少しふくらみが出て主人公に感情移入できたのだろうが、描写のほとんどが母親に対する想いでは物語に入り込みようもない。
主人公に感情移入できないから、カイジやレイナねぇねぇなんていういい脇役もうまく使えない。物語を母親との関係に絞ってしまったことで色々と損をしているのだ。そして、最後のどんでん返しというかトリックも映画の序盤で気づいてしまうようなものだ。この程度の仕掛けを引っ張って引っ張って「どうだ!」というように出されても、じれったいうえに興ざめなだけで、今ひとつ効果は上がらないと思う。
そんな中で蒼井優はよかったと思う。ウチナーグチも本土に住む私から見れば不自然さはなかったし、沖縄らしいのんびりした感じと芯の強さをうまく表現していたと思う。仕草の面ではつたない部分もあるが、表情の表現はとてもよかったと思う。東京での不安げな表情、集中する表情、島でののんびりした表情、大げさに泣く演技などなくとも、感情をうまく伝えられていたのではないか。
そんな蒼井優をうまく使いきれていないこの映画の構成と演出が本当にもったいないと思う。たとえばこれを中江裕司監督が撮ってたらもう少しいい映画になったと思うのだが…