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三十三間堂通し矢物語

★★★★星

2006/9/15
1945年,日本,77分

監督
成瀬巳喜男
脚本
小国英雄
撮影
鈴木博
出演
長谷川一夫
田中絹代
市川扇升
河野秋武
田中春男
preview
 江戸初期、和佐大八郎の父は三十三間堂の六十六間の廊下を矢で通す通し矢の記録を打ち立てたが、後に星野勘三郎に記録を破られ、自害した。大八郎は父の汚名を雪ぐべく旅館小松屋のお上お絹の庇護を受け、17歳にして遂に通し矢に挑戦することになった。しかし、家名を守ろうとする星野家は浪人を差し向けて大八郎を妨害しようとした…
  実際の故事に基づいて小国英夫が書いた脚本を成瀬巳喜男が監督。終戦間際、成瀬にとって初の時代劇となった。
review

 この映画が作られたのは終戦間際の昭和20年、この頃は思想統制ももちろんだが、物資の統制もあり、なかなか自由に映画が作れる時代ではなかった。その中で成瀬は時代劇を作ることによってそれなりの自由を獲得した。物語は実際の故事に基づき、しかも波風を立てるようなものではない。通し矢という競技を通した正義と仁義の物語である。
  戦前には芸道もの、戦後には女性映画を数多く撮った成瀬がこのような作品を撮るというのは以外という気もするが、戦中という事情があったことを考えれば妥当な選択だったのかもしれない。そして成瀬はこのなれない時代劇をまったく問題なくこなし、傑作とは言わないまでも、なかなかの作品に仕上げた。
  長谷川一夫はやはり長谷川一夫で存在感を発揮、田中絹代は繊細な演技を見せる。主人公を演じた市川扇升も決して華があるとはいえないが、みずみずしい演技は作品に馴染んでいた。
  この短いシンプルなドラマについて語ることはあまりない。戦後のみならず戦前から戦中にかけても女性を描き続けた成瀬もこの作品ではさすがにそれを描かなかった。田中絹代演じるお絹はさすがに芯の強い素晴らしい女性ではあるが、やはりあくまでも男を陰で支える女性であり、自己主張する存在ではない。武士という軍隊と似たシステムの中で女性は男が名をあげるのを助ける存在でしかないのだ。成瀬はそのしそうに甘んじることはなかっただろうが、ここではそのような考え方に対して波風をたてることはしなかった。もしかしたらこの頃の鬱憤が戦後に女性映画を撮り続ける原動力になったのかもしれない。

 そのような成瀬についての考察は置いておいてもこの映画はおもしろい。通し矢という競技がどうなるのかという展開に、両者の思惑が絡み、長谷川一夫演じる唐津勘兵衛という謎の人物が加わる。立ち回りのシーンもいくつかあり、時代劇らしい魅力も盛り込んで、戦争に疲れた人々の気晴らしにはいい映画だったのだろうと思う。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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