イーオン・フラックス
2006/10/16
Aeon Flux
2005年,アメリカ,93分
- 監督
- カリン・クサマ
- 脚本
- フィル・ヘイ
- マット・マンフレディ
- 撮影
- スチュアート・ドライバーグ
- 音楽
- グレーム・レヴェル
- 出演
- シャーリーズ・セロン
- マートン・ソーカス
- ソフィー・オコネドー
- ジョニー・リー・ミラー
- アメリア・ワーナー
2011年、新種のウィルスにより人類の99%が死亡、グッドチャイルドが開発した治療薬のおかげで生き残った五十万人の人々は壁で囲まれた都市で過ごして400年がたった、2415年、政府のやり方に反発する人々は“モニカン”と呼ばれる組織を作っていた…
人気TVアニメを基にしたSFアクション。それなりの物語とそれなりのアクションとシャーリーズ・セロンでそれなりの作品に。
この作品のような何が謎なのかわからないけれど、何かあって、それを突き止めようとするというストーリーはすごく面白くなる可能性がある。筋道がしっかりとあって、答えに向かってまっすぐ進んでゆく探偵小説的ミステリーより、観客に集中力を求めるからだ。 この映画は400年にわたって圧政を敷くグッドチャイルド社の社長を暗殺するべく送り込まれたイーオンがそこに「引っかかり」を感じるところから展開していく。その「引っかかり」がなんだかは具体的にはわからないのだが、それが非常に重要であり、それを無視することができないということはわかる。そしてその「引っかかり」の元を解明することがすべての鍵を握るということに気づくのである。
そして、その答えはなかなか予想できないものであり、その答えがわかってからスピードアップする展開も面白い。謎に対する鍵がほとんど用意されないので、謎解きの楽しみはあまりないが、それでも「いったい何なんだ?」と考えさせるドキドキ感はうまく演出され、見るものをあきさせない。
さらに、SF的な細部もなかなか面白い。もちろんアニメ的なあまりにありえないという設定も目に付くが、SFというのはありえないくらいのほうが面白いのであり、それがいつか現実になってしまうかもしれないものなのだ。たとえば脳細胞に何らかのドラッグを作用させることで外部と通信できる(つまりいわゆるテレパシーを人工的に作り出す)というのは人間の脳の計り知れない可能性を考えると十分現実的なことと思える。そのように想像力を刺激するSFというのはやはり面白い。
しかし、それ以上の何かがあるかといえば、それはない。優れたSFの多くはそのそこに思想性があり、何らかの現代的な問題意識をそこに投影している。SF小説の分野で言えばアシモフやハインラインは常にそのような意識を作品に込めていた。
もちろん他方で純粋に娯楽として面白いSFもあり、この作品もそのひとつなのだろう。多少ネガテブな面もあるが夢の世界に思いをはせるということは現実から飛躍するひとつのきっかけになる。この作品はそれをやり、しかもすっきりと終わることで爽快感を与える。
しかし同時に、このなぞめいた感じが観客に考えさせるだけに、見終わったあと何も残らないというのは寂しいという気もする。現代にも通じるような監視社会の問題を扱っているのだから、もう少し何かあってもよかったのではないか。それはこの人類滅亡の危機の原因となったウィルスについて何の言及もないからなのかもしれない。この危機が何らかの人間の意図によるものだとしたら、そこには様々な思想を込めることができるが、そこが追求されないために、そのときを生きる人の物語を超えることができないのだ。
もちろん、別にそれでもいい。だが、繰り返し見られたり、名作として残るにはそのような何らかの思想性が必要だっただろうというだけのことだ。