おいしい殺し方 - A Delicious Way to Kill -
2006/10/17
2006年,日本,106分
- 監督
- ケラリーノ・サンドロヴィッチ
- 脚本
- ケラリーノ・サンドロヴィッチ
- 音楽
- 周防義和
- 出演
- 奥菜恵
- 犬山イヌコ
- 池谷のぶえ
- 真木よう子
- 山崎一
あまりの料理下手のために恋人に幾度も振られた消崎ユカは今度こそという思いで料理学校に行くが、肝心の日にちまでに授業はないといわれる。しかしそこで有名講師の東大寺に出会い、彼が個人的に料理を教えてくれることに。おかげで料理は大成功し、料理学校に通い始めるのだが…
ナイロン100℃の主催者ケラリーノ・サンドロビッチの監督作。もともとはBSフジで放映されたTV映画で、それを再編集し劇場公開した。
サスペンス・コメディといえば聞こえはいいが、基本的にはサスペンス的なスパイスを加えたコメディである。物語の筋は料理学校の名物講師である東大寺の死の真相を3人の素人が探るというものだが、その物語自体はたいしたものではない。自殺に見える死が自殺ではなく、他殺であることが明らかになれば犯人もまた明らかであり謎解きの面白さはほとんどないからだ。そして最後に来る種明かしもなんだか唐突な感じで、観客にこっそりと鍵を渡して推理をさせるというようなことはしない。
しかしコメディとしてはやはり面白い。“脱力系”と評されるように、爆笑というよりは力の抜けるような笑いだが、なんだか面白く、クスリと笑ってしまうのだ。それもその笑いを生み出すのが主に会話というのがいい。物や動きを使ったギャグで笑いをとるというのが“脱力系”といわれる作品では多く、まあそれはそれで面白いのだけれど、やはりインパクトで笑わせるという感じがあって長続きしない。
しかし、会話で笑わせる場合にはさまざまなパターンが生まれ、バリエーションが生まれるので、同じようなシチュエーションでも何度も笑いを生み出すことができる。この作品では奥菜恵、犬山イヌコ、池谷のぶえの3人の会話が面白く、特に池谷のぶえのおかしさを奥菜恵が突っ込んで引き出し、それに犬山イヌコが乗るという展開で何度も笑った。
奥菜恵は舞台などに出て役者としての腕を磨いたからか味のある演技をするようになったように思う。少しオーバー気味という気もするが、舞台っぽいこの作品の中にあってはその過剰さも味わいと見ることができると思う。突然切れたり、ギャル系の女子大生のフリをしてみたり、芸達者なところも見せる。
しかしやはり異彩を放つのは犬山イヌコだろう。決して派手な役ではないが、笑いのつぼをしっかりと押さえてそれを支え、さらに物語の背後に横たわる人間関係もしっかりと演じこむ。主プロットである殺人事件の解決とは関係ない夫婦関係と横恋慕のサブプロットを静かに、しかししっかりと演じきる演技力はさすがに舞台や声優の仕事で鍛えられたものだと思った。
この犬山イヌコはケラリーノ・サンドロヴィッチがナイロン100℃を始める前、つまり有頂天というバンドで活躍していたころからケラの強力なサポーターだったという。ケラが劇団を結成してからはもちろんナイロン100℃のミューズとしてなくてはならない存在になったわけだが、その長い人間関係はこの映画にも非常にいいふうに働いていると思う。ケラリーノ・サンドロヴィッチの前作『1980』でも主役のともさかりえを押しのけてかなり存在感を発揮していた彼女は確かにあくが強く使いにくいのかもしれないが、もっと活躍していい女優さんだと思う。