更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー

キンキーブーツ

★★★★星

2006/11/1
Kinky Boots
2005年,アメリカ=イギリス,107分

監督
ジュリアン・ジャロルド
脚本
ジェフ・ディーン
ティム・ファース
撮影
エイジル・ブリルド
音楽
エイドリアン・ジョンストン
出演
ジョエル・エドガートン
キウェテル・イジョフォー
サラ=ジェーン・ポッツ
ジェミマ・ルーパー
リンダ・バセット
ニック・フロスト
preview
 イギリスの田舎町ノーザンプトンの靴工場に生まれたチャーリー・プライスは婚約者の転勤を機にロンドンへ出る。しかし、引っ越した矢先、父が亡くなりチャーリーが工場を継ぐことに。しかし工場は実は倒産寸前、チャーリーはその対処のためにロンドンに行くが、そこでひとりのドラァグ・クィーンと出会う……
  イギリスで実際にあった話をハリウッドで映画化。ドラァグ・クィーンという題材はやはり映画に向いている。
review

 昔から子供か動物の出る映画は失敗しないというが、私にしてみれば、職人かドラァグ・クィーンの出る映画にハズレはないといいたい。
  それは私の個人的な好みではなく、映画というものと職人、そしてドラァグ・クィーンの関係によるものだ。職人を題材にした映画がおもしろいのは、ひとつには映画もまた職人によって作られるものだからだ。完成した映画公開されるとき脚光を浴びるのは出演する俳優たちや監督、脚本家、プロデューサ、せいぜいカメラマンや音楽監督くらいなわけだが、長い長いエンドロールを見てもわかるとおり映画には多くの人がかかわってることはいうまでもない。そして彼らの多くは昔ながらの職人なのだ。自分たちが職人だからという意識で作っているわけではないと思うが、職人を題材にした映画からは何か温かみのようなものが伝わってくる。
  そして、職人と物の結びつきというのも職人を描いた映画がおもしろくなるひとつの要因でもある。映画というのは基本的に画面に映った“物”でできているものだ。映画を論ずるときに語られるのはそのプロットやら演技やら思想やらだけれど、実際に映画を見ると、そこに映っているのはほとんどが物だ。だから、その映っている物を扱う職人が主人公になるとき、大げさに言えば、画面はその職人の魂で埋め尽くされるのだ。そこまで大げさに言わなくとも、職人が扱われることで観客の目は者に向き、観客がいつもより映像に注視することになるのではないかと思う。
  一方、ドラァグ・クィーンはまったく別の意味で映画と近しい関係にある。それはドラァグ・クィーンも映画も作り込まれた不定形のものであるということだ。映画もドラァグ・クィーンも完成されたものは派手でインパクトがあるが、実はそれは砂上の楼閣のごとく何もないところに作り上げられた不定形の虚構なのである。しかしそれは完璧なまでに作りこまれ、付け入る隙がない。そのように完璧であるから、人々は虚構であるにもかかわらず、映画やドラァグ・クィーンに魅入られるのだ。
  だから、映画に登場するとドラァグ・クィーンはさらに輝きを放つ。そのためにドラァグ・クィーンというのがそれほど世間に受け入れられた存在ではないにもかかわらずドラァグ・クィーンを主人公にした映画に名作が多いのだろう。そしてもちろん、ドラァグ・クィーンが世間に受け入れられていないからこそ物語を作りやすいというのもある。彼らを輝かせる映画が彼らの悲哀を描くことで人々を感じ入らせるのは至極当然のことである。

 そんな職人とドラァグ・クィーンが結びついたこの映画がおもしろくないはずがない。話のほうは予定調和とも言えるような単純なストーリーだが、そこには人々の偏見とそれとの闘いがあり、人間と人間が触れ合うことで偏見が崩れて行くというロマンがある。予定調和でハッピーエンドになることがわかっていてもそのようなロマンティックな物語を見るのはいいものだ。
  ただひとつ何点をいうなら、やはり脚本の拙さだろう。特に、チャーリーの婚約者ニコラの存在が今ひとつ来ていない。彼女は終盤で重要な役目を果たすのだが、そこまでの話の持って行き方が今ひとつおもしろくないのだ。彼女が向上にまつわるプロットに関して果たす役割は無視できないものだが、別にそれがチャーリーの婚約者である必要はなかった。そこに愛憎劇というか恋愛を持ち出そうとしてしまうのはハリウッドの悪い癖だろうか。もしこれがイギリス映画だとしたら、ニコラの役目は婚約者ではなく妹あたりが果たしたのではないかなどと思う。
  しかしまあ、職人たちの心、ドラァグ・クィーンの気持ち、そしてもちろんドラァグ・クィーンのステージ、それらは十分に魅力的に描かれており、観客を放さない。チャーリーは主人公のようでいて実は狂言回しに過ぎない。本当の主人公はローラであり、メルであり、職人たちであり、ブーツなのだ。だからこの映画はおもしろい。
  『プリシラ』以来のドラァグ・クィーン映画の名作ではないかと私は思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: イギリス

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ