アンジェラ
2006/11/14
ANGEL-A
2005年,フランス,90分
- 監督
- リュック・ベッソン
- 脚本
- リュック・ベッソン
- 撮影
- ティエリー・アルボガスト
- 音楽
- アンニャ・ガルバレク
- 出演
- ジャメル・ドゥブーズ
- リー・ラスムッセン
- ジルメール・メルキ
- セルジュ・リアブキン
パリに暮らすアンドレはギャングからの借金を返さないと殺すと脅される。絶望したアンドレはセーヌ川に身を投げようとするが、隣にいた美女が先に飛び込んでしまい、アンドレはとっさに飛び込んで彼女を助ける…
リュック・ベッソンが『ジャンヌ・ダルク』以来6年ぶりに監督したラブ・ストーリー。映像の完成度はさすがだが、物語としてはまあまあというところ。
リュック・ベッソンのモノクロ作品はデビュー作の『最後の戦い』以来ということになるが、リュック・ベッソンとモノクロというのは非常にうまくあっていると思う。リュック・ベッソンの映画を見て思うのは、動いているものを撮るのがすごくうまいということだ。人でも、ものでも、風景でも、それが動いているとき、リュック・ベッソンのカメラは冴える。だから、彼の作品ではいろいろなものが激しく動き、流れる。そこにカラーの映像が載ると少しうるさすぎるというのは『フィフス・エレメント』を思い出してみればわかるだろう。あの映画は面白かったが、その映像における色の氾濫はどこか狂気の気配を感じさせるものだった。
だから、映像がモノクロになれば、彼の映像の動きの素晴らしさを純粋に味わうことができるというわけだ。特にクライマックスシーンのアンジェラの動きを追う映像はまさに圧巻である。
映像はそのように満足のいくものだが、物語のほうはなんとも今ひとつといわざるを得ない。この物語は結局何も言っていない。いうなればダメ男の願望を物語化しただけのもので、女性の“白馬の王子”信仰と同じように男には天使への信仰があるといったに過ぎない。
その意味では、リュック・ベッソンの物語は常に同じだといえるのかもしれない。不器用な男が女に救われる、ただそれだけを繰り返し描いているのだ。思えば『ニキータ』も『レオン』もそんな映画だった。
物語り全体はそのようなものだが、細部を見てみるとやはりなかなか面白くもある。特にアンジェラの行動や言葉には感心させられたり、笑ったりする。こんな天使が現れれば、それはいいだろうと思わざるを得ないのだ。
だから、全体としてはまあ面白い映画といえる。平坦で退屈ではあるが、決してつまらないわけではないのだ。
ただ、このような白黒の映像で天使が出てくると、どうしても思い出すのは『ベルリン天使の詩』である。舞台となるパリとベルリンの雰囲気もどことなく似ているし、ついつい比較してみたくなってしまう。そして、あのヴェンダースの名作と比べたらこの作品は大きく見劣りしてしまう。その作品にあった詩情はここにはなく、頭にこびりつくような映像もない。
リュック・ベッソンの監督作品はこれで9本(『アトランティス』を除くと8本)。生涯で10本しか監督しないといっていたのが本当ならリュック・ベッソンはあと2本しか監督をしないということになる。そのとき振り返ってみたら、この作品にも何らかの意味が見出せるのかもしれないが、今は1本無駄にしてしまったのではないかという思いも頭をよぎる。