パニッシャー
2007/1/9
The Punisher
2004年,アメリカ,123分
- 監督
- ジョナサン・ヘンズリー
- 脚本
- ジョナサン・ヘンズリー
- マイケル・フランス
- 撮影
- コンラッド・W・ホール
- 音楽
- カルロ・シリオット
- 出演
- トム・ジェーン
- ジョン・トラボルタ
- ウィル・パットン
- ロイ・シャイダー
- レベッカ・ローミン=ステイモス
FBIの覆面捜査官であるフランク・キャッスルの武器密輸の潜入捜査の中で大物ギャングであるセイントの息子が警察に射殺される。キャッスルはこの仕事を最後に引退するのだが、息子への復讐を誓うセイントはバカンスに出かけたキャッスルのところに殺し屋を送り込む。
原作は死刑執行人“パニッシャー”を主人公とした同名のマーベル・コミック。序章という印象だがスリリングな展開はなかなかのもの。89年にはドルフ・ラングレン主演でも映画化されている。
マーベル・コミックが次々と映画化される中で、この作品は生身の人間、しかもアンチヒーローを描いた異色の作品である。しかし、シリーズ化を狙ってか、序章といった体裁になっている点では他のマーベル作品と変わらない。この作品は元FBI捜査官であるフランク・キャッスルが“パニッシャー”となるまでを描いたものであり、その結末がわかっているだけに物語としては「どうなるんだろう」というスリルには欠けてしまう。
しかし、家族を殺されたことに対する復讐(あるいは制裁)という物語としてはなかなか面白い。どのように相手を追い詰め、苦しみに満ちた死をもたらすか。ただただ殺しまくるだけではなく、策を弄して相手を苦しめるそのやり方には創意工夫があってなかなか楽しめる。
なので、純粋にアクション映画としてなかなかの作品だと思う。派手なキャストも出ていないのであまりお金もかかっていないだろうし、隠れた名作とまでは行かないが、気楽に見られる佳作ではある。アメコミらしいばかばかしさもわずかながら残っているし、ありえなさ過ぎない感じもいい。
ただ、この“私刑”というテーマはどうなのだろうか。いくらマフィアが悪者であろうと、こんな風に殺してしまっていいものなのか。おそらく原作ではこの“パニッシャー”も終われる身となり、それでアンチ・ヒーローとなるのだろうけれど、この作品の段階では単なるヒーローとして描かれている。
ここにはどうも違和感がある。まず、おとり捜査で犯人が射殺されるということがあまりにあっけなく書かれているし、当の犯人もフランクが銃を構えたのに応じて銃を持ったわけで、果たして彼を射殺することが正義なのかということには疑問がわく。
そしてさらには、その死に対してマフィアが復讐し、フランクがそれにさらに復讐する。これは復讐の連鎖に他ならない。フランクは「これは復讐ではない、制裁だ」などとかっこつけているが、どう見ても復讐の要素は大きい。
“復讐の連鎖”は現在の世界中の紛争の大きな原因のひとつである。そんなことを考えると、復讐に対して復讐で返すこの映画の主人公がヒーローとして扱われることには非常な居心地の悪さを覚える。しかし法の目を逃れる悪人がいるということも確かなわけで、そこにも正義が要求されてしかるべきだろう。
つまり、ここに横たわっているのは、大きな理念としての正義と、個別の正義との間の問題なのだろう。“パニッシャー”は個別の正義を個人の力で実現する。それはアンチ・ヒーローとして格好いいが、その彼もどこかで大きな正義による制裁を受けなければならないはずだ。これがシリーズとして続くのなら、社会の歪みと主人公の苦悩を描くことで、正義の問題を投げかけてほしい。