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ベストセラー

キッド

★★★★.5

2007/1/15
The Kid
1921年,アメリカ,52分

監督
チャールズ・チャップリン
脚本
チャールズ・チャップリン
撮影
ロリー・トザロー
出演
チャールズ・チャップリン
ジャッキー・クーガン
エドナ・パーヴィアンス
カール・ミラー
preview
 慈善病院から赤ん坊を抱えて出てきた母親が苦悩の末、高そうな車に赤ん坊を置き去りにしてその場を去る。しかしその車は悪漢に盗まれ、赤ん坊は貧民街に置き去りに。そこをたまたま通ったチャーリーが赤ん坊を拾ってしまう…
  チャップリンが十分な準備期間を経て発表した初の長編作品。チャップリンのスタイルもさることながら、子役のジャッキー・クーガンの演技が涙を誘うメロドラマの傑作。
review

 チャップリンはもちろん喜劇役者である。この作品に至るまでの短編において彼は幾度となくドタバタ喜劇を演じ、それによって観客を魅了してきた。そのため、映画会社は短編に固執し、彼に長編を取らせようとはしなかった。しかし、チャップリンはドタバタ喜劇を演じる役者にとどまろうとはせず、独立して自ら長編を作る道を選んだのだ。
  そして、生まれたのがこの作品である。この作品でもチャップリンは喜劇役者としてコミカルな演技を見せてはいる。しかし、重点が置かれているのは悲劇的な物語であり、観客を魅了するのはチャップリンではなくジャッキー・クーガン少年なのだ。物語は少年を中心に展開し、それが観客の心を捉える。
  この少年に、チャップリンは自分自身の子供時代を重ね合わせているとよく言われる。ほとんど父親を知らなかったチャップリンにとって、ここで描かれている2人の関係はある種の理想形であったのかもしれない。彼らが食べているものはとてももおいしそうには見えないが、その食卓には笑顔が溢れ、濃密な幸福の匂いが漂ってくるようである。
  チャップリンにとってはこれが初長編であるにもかかわらず、彼はこのようなメロドラマの話法をすでに完成させていた。セリフに頼ることなく、物語を展開させ、登場人物の感情を観客に伝える、その部分ではチャップリンはすでに世界屈指の役者であり監督であったことは間違いない。
  だからこそ、クーガン少年の演技に観客は涙するのである。有名な2人の別れのシーン、少年の演技は多少大げさにも見えるけれど、それくらいの大げささによってこそ観客は大いに涙するのである。完璧主義のチャップリンの要望に答えたこの少年はもう一人の天才であったのかもしれない。

 この作品になんがあるとすれば、ラストの甘ったるさだろうか。終盤の引き裂かれようとする2人の関係を描いた部分の素晴らしさと比べると、どうもこの甘ったるさには違和感を覚える。しかし、これ以外の結末がありえたかといわれれば、それもありえないようにも思える。後年のチャップリンならもう少し辛辣な、ラストを用意したのではないかという気もするが、物語に現実の厳しさが十全に盛り込まれているだけに、ラストに救いがもたらされるというのもひとつのあり方ではある。
  そして、これはこの作品全編に盛り込まれた宗教的なモチーフとも共鳴しているのかもしれない。信仰と無縁でありそうなチャーリーが食事の前にお祈りを捧げ、終盤には天使の夢を見る。このモチーフの表れ方は明らかに恣意的なものであり、そこには何らかのメッセージが込められているに違いない。
  しかし、それは明らかではない。単純に考えると、貧しい人々が厳しい現実を生き抜くためには信仰にすがらざるを得ないということなのだろうが、それではどこかこの作品全体からは遊離しているようにも思えてしまう。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ50年代以前

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