花よりもなほ
2007/1/16
2006年,日本,127分
- 監督
- 是枝裕和
- 原案
- 是枝裕和
- 脚本
- 是枝裕和
- 撮影
- 山崎裕
- 音楽
- タブラトゥーラ
- 出演
- 岡田准一
- 宮沢りえ
- 古田新太
- 浅野忠信
- 香川照之
- 國村隼
- 原田芳雄
- 上島竜兵
- 木村祐一
- 千原靖史
- 加瀬亮
- 寺島進
元禄15年の江戸、赤穂浪士が浅野内匠頭の仇を討つかが巷の話題になっていたころ、うらびれた長屋に仇を探す男がもう一人いた。その男は青木宗左衛門、父の仇を討つために松本から出てきた若侍である。しかしなかなか敵が見つからず、長屋の風変わりな人々とのんびりとした日々を送っていた…
『誰も知らない』の是枝裕和監督が初挑戦した時代劇、こちらも初時代劇の岡田准一の存在感が光る。
これは時代劇としては非常に現代風の作品で、ユニークであるけれど、是枝監督の作品としては非常にオーソドックスなものではないだろうか。是枝監督の作品は原作ものであるデビュー作の『幻の光』を除いて、自信の卓越したアイデアによって秀逸な作品を生み出してきた。『ワンダフルライフ』の死後の世界、『DISTANCE』のカルト、『誰も知らない』の兄弟、そのどれもがリアルでありながらユニークな発想を感じさせるものだった。
それと比べると、この作品のアイデアはオーソドックスなものに見える。時代劇というベースの上で見れば登場人物のキャラクターなどにユニークさを感じられるが、プロットに関して言えばあまり意外性はなく、淡々と進むといってもいい。加えて、時代劇であるために、ドキュメンタリー的な要素を感じさせる部分がなく、是枝監督らしさがあまり発揮されていないように思えてしまうのだ。だから、退屈というほどではないけれど、何か物足りない印象が全編を通して感じられてしまうのだろう。
しかしもちろん面白くないわけではない。特に、それぞれのキャラクターに深みが感じられるのがいい。宮沢えり演じるおさえも、古田新太演じる貞四郎も、加瀬亮演じるそで吉も、木村祐一演じる孫三郎も、それぞれを主役にしてひとつのサブストーリーができそうなくらいに、その背後に何かがあると感じさせるのだ。
よく考えれば、脇役であってもその人それぞれの人生があり、そこに物語があるのは当然なのだが、普通はそれを感じさせることなく、脇役は脇役としての役割を演じるだけなのである。しかし、この作品においてはそれぞれの人生のかけらがふとした拍子に零れ落ちるようで、そこに興味を引かれる。そして、ここにこそ是枝監督の作品に満ちるリアリティの秘密があるのではないか。この脇役のキャラクターの作り方によって時代劇などという現代から見れば決してリアルではないものにもリアリティを感じさせるているのである。
結局、是枝監督は、作品が現代劇であろうと時代劇であろうと、“人間”を描いているのである。人間の本質的な部分は現代であろうと、江戸時代であろうと変わらない。だからこそ時代劇であっても同じようにリアリティを持った作品が作れるのだ。
となると、逆にこの作品は時代劇らしくないからこそ物足りないと感じられるのかもしれない。時代劇であることによって“らしさ”が減じ、“らしい”がゆえに時代劇らしさが減じる。それが同時に起きることによって物足りない作品となってしまったのではないか。それならば、思いっ切りベタな時代劇を撮るか、完全に時代劇という構図を壊してしまったほうがよかったのかもしれないなどと思ったりする。