アイアン・ホース
2007/1/26
The Iron Horse
1924年,アメリカ,119分
- 監督
- ジョン・フォード
- 脚本
- チャールズ・ケニヨン
- ジョン・ラッセル
- 撮影
- ジョージ・シュナイダーマン
- 出演
- ジョージ・オブライエン
- マッジ・ベラミー
- シリル・チャドウィック
- フレッド・コーラー
南北戦争時代のアメリカ、アメリカ中部のスプリングフィールドの測量技師ブランドンはアメリカ横断鉄道を建築する夢を抱いていた。その夢をかなえるため息子とともに西部に向かうが、その途中で2本指のインディアンに襲われ命を落としてしまう。数年後、アメリカ横断鉄道はついに実現しようとしていた…
ジョン・フォードがその名を上げたサイレント期の西部劇の名作。アメリカ横断鉄道建設の歴史が生々しく描かれる。
基本的にはアメリカ賛美、アメリカ開拓のヒーロー物語である。アメリカ横断鉄道が最終的にアメリカという国を一つにしたというのはよく言われることだが、確かにそれまでの駅馬車というシステムと比べると、この鉄道というシステムはそれによって結ばれた場所同士を緊密につなげる。当時「国のため」という概念で動く人がこんなにたくさんいたとは思えないが、それでもこのような歴史物語には力がある。
描かれている物語自体はたいしたことはない。鉄道敷設を目指す青年と、それを妨害しようとする私欲に駆られた人間が登場し、ロマンスもあったりするが、結末は大体が予定調和という感じである。この作品が面白いのはその主プロットではなく、それ以外の部分である。まず、端的に面白いのは脇役の“三銃士”であるだろう。作品のコメディ部分を担当する3人はポイントポイントで活躍するし、歯医者でコメディを演じる1シーンも用意されている。
このような瑣末な部分こそが観客を楽しませるのであり、これこそがハリウッドという気がする。私はサイレントの西部劇は始めてみたのだが、トーキー時代の西部劇との共通点よりも、サイレントのほかのハリウッド映画との共通点のほうが目に付く気がした。美男と美女のスターがが登場し、コメディが挟まれ、最後には大団円を向かえる。このパターンはドラマのジャンルが何であれあまり変わらないのだ。
そしてもうひとつ注目したいのはインディアン(本来はネイティブ・アメリカンと書くべきだが、それだと雰囲気が出ないので)である。西部劇といえばインディアンであり、大陸横断鉄道の敷設にインディアンが生涯になったというのは有名な事実である。
アメリカ横断鉄道の建設とインディアンなんて今から思えば遠い昔の話に思えるが、それもそのはずこれは日本でいえば明治維新の頃の話なのである。しかし、この映画が作られたのは1924年、アメリカ横断鉄道が完成したのが映画によれば1869年だから、映画を基準に考えれば50年余り前の話ということになる。これを今に当てはめて見ると、戦後まもなくと言うところで、そういわれるとそんなに昔の話ではないという気がする。
つまり、この映画をリアルタイムで見た観客にとってはここに描かれている物事はそんなに昔の話ではなかったということだ。インディアンが暴虐な人々として描かれている点は(ある意味では西部劇の典型と言うことではあるが)今から見ると差別的な視点であるとも言えるが、この時代の人々にとってインディアンはまだ恐怖の対象であったということでもある。白人とインディアンの戦いが終結したのは1890年(ウンデット・ニーの虐殺)であり、大陸横断鉄道よりもさらに近過去の話なのである。
ただ、この作品ではインディアンはほとんど無視されている。残虐な人々として描かれているというよりは、単なる障害物であり、白人が使う道具として描かれているのだ。敵はインディアンよりも私欲に駆られたほかの白人なのだ。
戦争もあり、不況もあり、アメリカという国が揺らぐ中で、人々の愛国心に訴え、“一つのアメリカ”を唱えるためにはこのような作品がふさわしかったのだろう、そこではインディアンや中国人はまったく視野に入っていなかったのである。