次郎長三国志 第一部 次郎長売出す
2007/2/1
1952年,日本,82分
- 監督
- マキノ雅弘
- 原作
- 村上元三
- 脚色
- 村上元三
- 松浦健郎
- 撮影
- 山田一夫
- 音楽
- 鈴木静一
- 出演
- 小堀明男
- 若山セツ子
- 田崎潤
- 森健二
- 河津清三郎
- 田中春男
- 広沢虎造
- 沢村国太郎
清水の米屋のせがれ長五郎は居酒屋での喧嘩で旅のヤクザもんふたりを海に投げ込んでしまう。ふたりを殺してしまったと思った長五郎は旅に出てやくざものとなる。旅の途中の賭場で桶屋の虎吉という若者と知り合い、子分にしてやると請合って、一足先に清水に帰った。
マキノ雅弘の未完の大作『次郎長三国志』シリーズの記念すべき第1作。次郎長がヤクザもんとなるところから、3人の子分を得るところまでが語られる。
この作品は、東宝に帰ったマキノ雅弘が、小林一三社長の頼みで、小堀明男主演で次郎長ものをということで決まった企画である。最初から第1部と第2部をまとめて撮り、年末から正月にかけて続けて公開ということになっていたので、一本の映画を撮るように(40日間で)撮影され、ギャラも1本半分だったという。
もちろんシナリオもまとめて出来上がっていたし、同じロケ地(伊豆)で2本まとめて撮ったというわけである。だから、出来上がった映画を見てみても、1本の作品と考えたほうがいいような作品に仕上がっているというわけである。長さも2本合わせても3時間弱だし、1本の映画の前後編と考えたほうがいいように思える。
さて、清水の次郎長といえば、次郎長自身よりもその子分たちのキャラクターがおもしろい話である。遠州森の石松を筆頭に、大政小政に桶屋の鬼吉、法印大五郎なんて子分が物語の主役である。だから、物語の導入は自然その子分たちを集める物語になってくる。そして、この第1部・第2部は丸ごとその物語であって、それこそが次郎長の始まりであるというわけだ。
まず、第1部では一の子分桶屋の鬼吉に、関東綱五郎、清水の大政の3人の子分を得る。鬼吉は尾張弁の響きがよく、いつまでも面白キャラクターだが、それはこの1作目から存分に発揮されている。そして、シリーズを通して次郎長の右腕となる大政も武家としての身分を捨ててやくざ渡世に身をやつすそのいきさつがメロドラマさながらに描かれている。
そして、大政は藩随一と言われた長槍の腕前をはじめとしたその武術巧みな部分で次郎長一家に貢献するという筋道がここですっかりと立てられているというわけだ。
しかし、そんな子分が集まるという物語がある以外に特に見所はなく、いかにも導入の話という感じもある。90分弱という作品を見終わってようやく「これからシリーズがはじまるぞ」というワクワク感がわいてくるのは、今私たちがこの作品が9作続くシリーズの第1作だからと知っているという理由からだけではあるまい。東宝もマキノもスタッフもキャストたちもこの作品が何作になるかはわからないにしろシリーズになる作品の第1作に過ぎず、導入部分に過ぎないことを知っていた。だからやはりこの作品は導入の作品にしか見えないのだ。
シリーズ全体を見れば、この話は重要だし、次郎長がどのようにして街道一の親分になって行くのかという物語と考えれば興味深く見れる。しかしやはり1本の映画としては物足りない。おもしろい部分と言えば桶屋の虎吉がお千に言い寄る部分などの細かい部分と、最後に次郎長が大政の勧めもあって喧嘩の加勢ではなく、仲裁に向かうというクライマックスの部分くらいである。
しかし、もちろんこのクライマックスで次郎長がただのやくざの親分とは違い、仁義に熱く、しかも頭のいい切れ者だということが明らかになる。ここで次郎長の魅力を前面に出すことで、観客をすっかり次郎長の側に立たせ、次作以降でどう次郎長が売り出して行くのか、そして石松をはじめとするほかの子分たちはどのように集まってくるのかという楽しみを観客に与えるあたりはさすがはマキノ、次の作品次の作品と観客を映画館に引っ張り込む手腕が見事に発揮されている。