セレブの種
2007/2/5
She Hate Me
2004年,アメリカ,140分
- 監督
- スパイク・リー
- 原案
- マイケル・ジャネット
- 脚本
- マイケル・ジャネット
- スパイク・リー
- 撮影
- バリー・アレクサンダー・ブラウン
- 音楽
- テレンス・ブランチャード
- 出演
- アンソニー・マッキー
- ケリー・ワシントン
- エレン・バーキン
- モニカ・ベルッチ
- ダニア・ラミレス
- バイ・リン
- ウディ・ハレルソン
- Qティップ
- ジョン・タトゥーロ
30歳で製薬会社の部長にまで上り詰めたアフリカ系のジャック、今朝も中のよい研究者であるシラー博士にコーヒーを持って行くが、博士はジャックに結婚して子供を作れという言葉を残して、窓から飛び降りてしまう。そして、彼のもとに残された博士からのメッセージは驚くべき秘密が…
スパイク・リーが人種差別、同性愛差別という問題に加えて、巨大企業と連邦政府の陰謀までさまざまな問題を提起した社会派コメディ。だけど、堅苦しくなく面白い。
この作品が日本でなかなか公開されなかった理由は、ウォーターゲート事件を巡る話とか、アメリカの時事ネタ(エンロンなど)の話がわかりにくいからだろうと思ったら、実はそうではなく、アメリカでえらく評判が悪かったかららしい。私の感想からすると、インデュペンデント・ムービー・アワードとか、ニューヨーク批評家協会賞なんかの候補に挙がってもよさそうな作品に見えるが、結果的にはマイナーな賞2つの候補に上がっただけに終わり、興行的にも振るわなかった。それで日本の配給会社も二の足を踏んだというところだろう。
しかし、作品はすごく面白い。“黒人差別と戦う”というイメージがついてまわるスパイク・リーだが、この作品ではその黒人社会の中での格差や、黒人の中で強くある同性愛差別(ホモフォビア)を描き、アメリカという社会が単純に割り切れない構造にあることを緻密に描いている。
主人公のジャック(本名はジョンで中でジョンとも呼ばれるが、愛称がジャックらしい)がレズビアン相手に精子提供をビジネスとするのも、結局彼が今の高水準の生活を維持したいがためである。彼は両親の家に帰って暮らすことはできなかった。それは、彼と両親の間にはすでに越えられない階級的な格差が生まれてしまっているからだ。もちろん家族のことを愛してはいるし、父親は彼のヒーローであるのだが、やはり生活は一緒にはできない。そこにアメリカ社会の複雑さが垣間見えるのだ。
この作品が興行的にも評価としても失敗してしまった理由は、あまりに多くのことを盛り込みすぎてしまったことにあるのではないか。人種差別、同性愛者差別、精子バンクをはじめとした家族の問題、巨大企業の権益などなどというあまりに多くの問題が一緒くたに盛り込まれたがゆえに焦点が定まらず、結局なにが主題なのかがわからなくなってしまった。
私は別に映画に一つの主題が必要だとは思わないが、確かに散漫な印象は受けるし、そのうえ結末のつけ方が甘っちょろい。ハッピーエンドになることは確かにうれしい感じもするが、これだけいろいろな問題があって、それが全て大団円となると「本当かよ」という気持ちにもなる。途中でいろいろ考えさせられるだけに、最後はそれ?という疑問が起きるのも確かだ。
それでも私はこの作品は非常に面白い作品だと思う。何よりもスパイク・リーの語り口が最高だ。と言っても言葉ではなく映像だが。彼の映像を見ていつも思うのは、通常の人間の認知と違うやり方でものを見せるということだ。それはハリウッドの不文律を反故にすることにより生まれ、結果的に私たちの認知がハリウッドの方式に規定されてしまっているということを明らかにするのだが、それがなかなか気持ちいい。
この映画のほんの序盤にジャックとマーゴの会話のシーンがあるが、ここでカメラは2人を真正面からクロースアップで捉え、それを交互に切り返す。別に珍しいショットではないが、観客は結果的に激しく移動しているような感覚に捉えられるのだ。他にも日常ではありえない視点で捉えられる映像が多く、リアルなドラマであるにもかかわらず、不思議な感覚も覚えるのだ。
確かにとっつきにくくはあるが、ぜひとも見て欲しい作品である。注目点を上げるとすると、アレックス役のダニア・ラミレスか。彼女は『X-MEN:ファイナル ディシジョン』にも出演し、一役当たればジェニファー・ロペスのようにブレイクしそうな雰囲気を持っているドミニカ出身の女優である。