次郎長三国志 第五部 殴込み甲州路
2007/2/8
1953年,日本,77分
- 監督
- マキノ雅弘
- 原作
- 村上元三
- 脚色
- 松浦健郎
- 構成
- 小国英雄
- 撮影
- 飯村正
- 音楽
- 鈴木静一
- 出演
- 小堀明男
- 若山セツ子
- 河津清三郎
- 田崎潤
- 森健二
- 田中春男
- 石井一雄
- 森繁久彌
秋祭りににぎわう清水港、鬼吉と綱五郎は相変わらず寿々屋のお千を取り合って、次郎長一家もお祭り騒ぎに和んでいた。しかし、そのころ甲州で大熊の賭場が猿屋の勘助と諍いを起こしていた。それを聞いたお仲が探りを入れるため甲州へと旅立つが…
マキノ雅弘の『次郎長三国志』シリーズの第5部。加東大介の豚松が登場、子分もそろっていよいよおもしろく。
この作品は『次郎長三国志』シリーズの中でも屈指の出来だと思う。まず、猿屋の勘助を偵察に行くお仲という設定、そしておなかが捉えられたと知って多勢に無勢の敵陣へと意気揚々と乗り込んで行く次郎長一家。その旅の途中、敵に囲まれてもものとはせず、余裕を感じさせるところに貫禄がついてきた次郎長一家の面々の格好よさが満ち満ちている。
そして、旅の途中で囲まれるシーンもそうだが、立ち回りがダイナミックでとてもいい。この『次郎長三国志』シリーズでは、人の物語が中心だからか、役者たちが未熟だからかわからないが、立ち回りというのはこれまであまりなかった。マキノといえば時代劇の大立ち回りのうまさに定評があるのにである。
それが、この作品で堰を切ったようにあふれ出る。数十人から百人もに囲まれた十人あまりの次郎長一家、その壮絶な戦いぶりを映すマキノの腕に衰えはない。シリーズも第5作、すでにここまでで次郎長一家にすっかり肩入れしている観客たちは彼らがバッタバッタと敵を斬ってゆく姿に気持ちをスカッとさせることだろう。
これぞ娯楽映画の巨匠マキノ雅弘の本領発揮という感じである。
そしてそのアクションのすごさに味を加えるのが加東大介演じる豚松の存在である。少々マヌケな三枚目の豚松が、しかし親分にほれ込んで親分のためなら命も投げ出そうというのに、お蝶と一緒に留守番を言いつけられる。それはもちろん次郎長のやさしさ、腕に覚えのあるわけではない豚松を連れて行ってつらい思いをさせるよりは、留守番させるほうがいい。親分に敬服しきっている豚松は不満ながらももちろんそれに逆らうはずがない。
マキノは最初、この豚松を第五部から第八部にかけて、主役級の役柄として使おうとしていた。そのつもりで脚本を仕上げ、第五部の撮影にはいったわけだが、途中で加東大介の『七人の侍』への出演が決まり、会社から「ブタマツコロセ」という電報が来
たという。もちろんマキノは東宝が力を注ぐ『七人の侍』を優先させて豚松が死ぬように台本を書き直したわけだが、もっと豚松が活躍するところを見たかったと思う。
それを知っていたためか、豚松の最後が何かとってつけたように思えたのが残念だった。その代わりと言ってはなんだが、森繁の石松が非常によかった。石松と言えば片目だが、このシリーズではずっと両目の石松を演じ、すっかり板についた感じ。森繁が町で「石松、石松」と呼ばれて閉口するというのもわかる。
この作品はシリーズ第5作になるわけだが、この作品が封切られたのは第一部が封切られてから11カ月後のこと、次の第六部も翌月に封切られたから、結局一年間で第六部までが封切られたことになる。結局約1年半の間に全九作が封切られたというは、さすがに早撮りのマキノである。
時代劇のマキノ、チャンバラのマキノ、早撮りのマキノ、それらマキノの得意とするところがこのシリーズにはよく表れ、特にこの作品にはそれが強く表れている。
私はマキノの作品はどちらかというと戦前の作品の好きだが、この『次郎長三国志 第五部』はマキノの戦後の作品の中では屈指の出来だと思う。シリーズの中の一作として忘れられがちではあるが、シリーズのピークでもあり、マキノのキャリアのひとつのピークでもあるのではないかと思う。