潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ
2007/2/9
Wrestling Ernest Hemingway
1993年,アメリカ,123分
- 監督
- ランダ・へインズ
- 脚本
- スティーヴ・コンラッド
- 撮影
- ラホス・コルタイ
- 音楽
- マイケル・コンヴァーティノ
- 出演
- ロバート・デュヴァル
- リチャード・ハリス
- シャーリー・マクレーン
- サンドラ・ブロック
とあるリゾート地に暮らす老人のウォルターは誕生日に来るはずの息子が、贈り物を贈っただけで済ませたことに憤る。しかしウォルターはうれしそうに贈り物の帽子をかぶり、公園のベンチで見かけたフランクに声をかける。最初は迷惑そうにしていたフランクだが、2人は徐々に仲良くなって行く…
ロバート・デュヴァルとリチャード・ハリスという名優ふたりにシャーリー・マクレーンをそろえた老人映画の佳作。穏やかな気持ちで見られるのがいい。
老人ふたりがダイナーのウェイトレスに恋をしたり、喧嘩をしたりという話で、いい役者が出ているだけに、もっとこねていけばいい映画になったような気もするのだが、今ひとつ決め手に欠けるという印象だ。
たとえば、老人の一人ウォルターはキューバ出身、革命前にアメリカにやってきたと語る。これに対してフランクはアイルランド移民で元船乗り。このような複雑な背景と歴史を抱えたふたりがであったらもっといろいろな出来事や、衝突がありそうなものだが、ふたりが直面するのはいつも今そこにある現実、それもほとんどが女生徒の関係に尽きるのだ。
まあ、人間年をとれば過去の難しいことやややこしいことは忘れて、残りの人生を楽しく生きればいいという考えになるのだろうが、実際のところ彼らの態度にはその人生の重みがにじみ出ているし、いろいろな経験をしてきたからこそ互いに譲れない部分や寛容になれる部分が存在するのだ。
だから、彼らの感情の発現の仕方はもっと複雑な形を取るものなのではないかなどと思ってしまう。この映画はただ登場人物が老人というだけで、彼らの行動や考え、感情の生まれ方は普通の大人が主人公の映画と変わらない。そこにどうも物足りなさを感じてしまう。それぞれが複雑な感情を抱え込んでいることがわかるにもかかわらず、それが物語りに生かされていかないのだ。もしそれが含蓄となって物語に深みが出るとか、感動を誘うということになればいいのだけれど、あまりに背景にありすぎるためにそこまでの効果も生まれないのだ。
名優たちはさすがにいい演技をし、そのような感情を見事に滲み出させているにもかかわらず、演出かあるいは脚本がそれを生かしきれていない、そんな口惜しさを感じてしまう。
別に批判をするわけではないが、監督のランダ・へインズはウィリアム・ハート主演の『愛は静けさの中に』で小ヒットを飛ばしただけの平凡な監督、脚本は新人のスティーヴ・コンラッドだった。
なんとももったいないような作品だ。