ユナイテッド93
2007/2/14
United 93
2006年,アメリカ,111分
- 監督
- ポール・グリーングラス
- 脚本
- ポール・グリーングラス
- 撮影
- バリー・アクロイド
- 音楽
- ジョン・パウエル
- 出演
- ハリド・アブダラ
- ポリー・アダムス
- オパル・アラディン
- ルイス・アルサマリ
- デヴィッド・アラン・ブッシェ
- リチャード・ベキンス
2001年9月11日朝、ニューアーク空港を飛び立つユナイテッド航空93便に4人のアラブ人が乗り込む。飛行機は空港の朝のラッシュに巻き込まれてなかなか飛び立てず、彼らは苛立つ。そんな中、ボストンを飛び立ったアメリカン航空11便がハイジャックされた疑いがあるという情報が管制センターに入ってくる…
9.11のテロの際、唯一目標に到達せずに墜落したユナイテッド航空93便の中で起こったと去れる出来事を再現したドラマ。9.11の悲劇を思い出さずにはいられない衝撃的な作品。
「9.11」を(遠く離れた日本からTVという果てしないフィルターを通してでも)目撃した人なら、それを忘れることは決してないだろう。だから、この映画がそれを「忘れない」ための映画だとしたら、それは的外れなものだ。しかし、作品を見て思うのは、その時の衝撃や感情は時間とともに風化してしまっているということだ。事件から5年以上がたち、グラウンド・ゼロには新しい建物が建ちつつあり、タリバーンは弱体化した。もう5年もしたら、NYは新しく生まれ変わり、「9.11」は過去になる。そうなったときに私たちは記憶の底に沈んでしまった記憶をたびたび新たにし、このような悲劇を2度と起こしてはならないということを頭に刻み込まなければならないのだ。
それはこの事件にかかわらず、あらゆる悲劇についていえることだ。日本の映画界が第二次世界大戦と原爆の悲劇を題材にし続けることにはそのような意味がある。
この作品はその意味で必要とされる作品であり、5年という時間がたってから作られたことに大きな意味がある。さらにはこの中で乗客たちが電話を通じて愛する人たちに残す言葉は感動を誘い、自分にとって大事な人のことを思わずにはいられない。
ただ作品としてはどうだろうかという気もする。全編に漂う緊張感は素晴らしく、心理サスペンスとして非常に優秀なのだが、これがドキュメンタリー風に作られていることには問題がある。もちろん取材を尽くし、決して明らかになることはないユナイテッド93便の内部の様子を再現しようとしたのだろうけれど、それはあくまでフィクションに過ぎない。そのフィクションに過ぎないものをドキュメンタリーのように描くことには非常な違和感を感じる。
そして、ここに描かれているのは一体なんなのだろうかと思う。この映画の最初に“God Bless America”と書かれた看板が映り、次にコーランを読む犯人が映る。飛行機の中でも犯人たちはたびたび祈りを唱え、乗客の中にも祈る人がいる。彼らが祈っているのは同じ神のはずなのに、祈っている内容はまったく反対だ。果たして彼らにとって神とは何なのか、そんなことを考えざるを得ない。
この作品で一番面白いのは、事態に対処しようとする管制官たちを描いた部分だ。彼らの感じる緊迫感が観ている側にも伝わり、混乱した状況を収拾しようと努力するその動きにはスリルがある。結局デルタ1989便はどうなったのか、アメリカン11便はどこへ行ったのか、その一つ一つがドラマになる。しかし、同時に映画として面白いのは、その部分だけだということも出来る。
もちろんそのような映画としての評価をこえて見る価値のある作品ではあるが、これ1本で「ユナイテッド93」について語りつくせたとはとてもいえない。できることならば、イランなどイスラム教の国々も含めて様々な視点からこの「ユナイテッド93」について映画が作られればいいと思う。物語を創作するための材料は同じでも、視点によってどれだけ異なった物語が生まれてくるのか、それを見ることによってこの事件が孕む本当の問題点が明らかになってくるはずだ。
この映画がどうこうということとは関係なく「9.11」について考え続けることは必要だと強く思った。