フィオナの海
2007/2/19
The Secret of Roan Inish
1994年,アメリカ,103分
- 監督
- ジョン・セイルズ
- 原作
- ロザリー・K・フライ
- 脚本
- ジョン・セイルズ
- 撮影
- ハスケル・ウェクスラー
- 音楽
- メイソン・ダーリング
- 出演
- ジョン・コートニー
- アイリーン・コルガン
- ミック・ラリー
- ジョン・リンチ
- スーザン・リンチ
アイルランドに暮らすフィオナは父親の元を離れ、田舎で祖父と共に暮らすことになった。そこは以前、家族で暮らしていたローン・イニッシュ島のほど近く、フィオナはその島で母を亡くし、弟も海に流されてしまうという悲しい思い出のある島だった…
アイルランドを舞台にしたファンタジー・ドラマ。監督は『アポロ13』などで脚本家として知られるジョン・セイルズ。95年のインディペンデント・スピリット賞にもノミネート。
これはファンタジーというのかなんと言うのか、アイルランドを舞台として、時代設定は50年代というあたりか。ローン・イニッシュ島という島に暮らしていた一家が島を捨てて移住する。しかし、その近くに住む祖父母の元で暮らすようになったフィオナは島を訪ねるようになり、一家の伝承を耳にし、一家が島を離れるときに行方不明になったはずの幼い弟の姿を目にするという話。
ここで重要になるのは伝承である。フィオナの一家でい世代にひとり生まれるという黒髪の子孫、それがアザラシの化身である海の精の伝説につながる。その伝承をフィオナはその黒髪の子孫のひとりから聞き、行方不明になったこれも黒髪の子孫のひとりであるフィオナの弟ジェミーの姿を目にするのだ。
確かにこれは非現実的な話である。だからファンタジーといってもいいのかもしれない。しかし、結果的にはこれはあくまでも現実の物語であり、何か非現実的な力の存在を明らかにするというものではないということもいえる。これは伝承と現実のつながりを示す物語だ。フィオナの先祖を物語る伝承が真実であるかどうかはわからないが、この現実から考えると、それが真実であってもおかしくはない。それは翻ってみると、伝承というのは無から生まれた物語ではなく、何らかの現実的な根拠があって生まれた物語だということだ。
フィオナの一族で一世代に一人生まれるという黒髪の子孫、そのひとりが必ず優秀な漁師であり、海を思いのままに操るということ、その事実があるからこそ、その子孫が生みのせいであるという伝承が存在しうるのである。実際にその伝承が構成の現実から作り出されることもあれば、どの伝承のもととなるような過去の事実があって、それが現在の現実を作り出したということもあるのだと思うが、どちらにしても伝承というものは常に現実とつながっている。火のないところに煙は立たないというが、伝承は現実の支えがないところには生まれないのである。
そこが完全に荒唐無稽でもありうるファンタジーと異なる部分だ。この作品が面白いのは、少女の幻想に過ぎないファンタジーのような停止をしながら、最終的にはそれが現実に基づいた伝承へとつながっていくていくというところだ。彼女の幻想のすべてが現実と化してしまうと、それはそれでうそっぽくてなんだかなぁという感じになるのだが、この物語のようにある程度までは現実化し、ある程度からはあいまいな領域にとどまるという結末のつけ方をされると、物語り全体に説得力が増す。
途中少々退屈な部分はあるけれど、はっと驚くような現実や、現実か幻想か判別がつかないような出来事もある。そして、それをさまざまな“色”(主にフィルターによって赤や黄色や青や白といった色で画面全体を染める)によって描き出す。この色が現実とは異なる知覚を表現することで、現実と幻想の境界を曖昧にするのである。
面白いというよりは興味深いというか味わい深いというか、不思議な魅力のある映画です。