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ロング・エンゲージメント

★★★--

2007/3/18
Un Long Dimanche de Fiancailles
2004年,フランス,134分

監督
ジャン=ピエール・ジュネ
原作
セバスチャン・ジャプリゾ
脚本
ジャン=ピエール・ジュネ
ギョーム・ローラン
撮影
ブリュノ・デルボネル
音楽
アンジェロ・バダラメンティ
出演
オドレイ・トトゥ
ギャスパー・ウリエル
ジャン=ピエール・ベッケル
ドミニク・ベテンフェルド
クロヴィス・コルニアック
マリオン・コティヤール
preview
 第一次大戦下のフランス、故意の負傷によって軍法会議で死刑を宣告された5人の兵士が前線に連れてこられ、武器も持たずドイツ軍との中間地帯に置き去りにされた。その中の一人マネクの婚約者マチルドは終戦後、まだ彼が生きているのではないかと考えて調査を始める…
  『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネとオドレイ・トトゥが再びコンビを組んだミステリーなラブ・ストーリー。『アメリ』から少しジュネらしい方向に揺り戻した感じ。
review

 ジャン=ピエール・ジュネは『アメリ』によって日本でも認知度が急に上がったが、本来はロマンティックなラブ・ストーリーを撮るような映画作家ではなく『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』といった気味の悪い作品を撮っていた。そのことはテリー・ギリアムに気に入られて『エイリアン4』の監督に抜擢されたことからもよくわかる。
  そのジャン=ピエール・ジュネが『アメリ』を撮ったのにはいろいろな理由があったろうが、表面的には明るくロマンティックなあの映画にも彼の独特な世界観は投影されていた。そして、それはこの作品にももちろんある。
  彼の世界の捉え方は独特なのだと思う。それは、世界をまず細部から捉えて行くというやり方である。人の知覚というのは基本的に全体的なイメージをおおまかに捉えて、それから細部に注目して行くものだと思うのだが、このジャン=ピエール・ジュネはどうもまず細部にこだわっているように思えて仕方がない。それは全ての映画の画面に表れている。彼の映画では細部が最も重要であり、瑣末な部分にこそこだわりが見られるのである。
  例えばそれは蒸気機関車の煙であり、浴槽に落ちたメモから流れ出るインクであり、やすりで削られる縦断である。彼の作品の映像がどこかファンタジックで同時にアニメっぽく見えるのは、その細部へのこだわりが、画面の全てを平等に映そうとするからだ。そのために全ての映像は必然的にパン・フォーカスとなり、現実感が失われるのだ。
  その非現実的な感覚が彼の作品の最大の魅力である。その非現実的な世界を魅力的と感じられるかどうかは、見る人によるとは思うが、その世界観さえ受け入れることが出来れば、彼の作品の経験は非現実へのある種の跳躍であり、非日常の体験となりうる。そして、それは映画の根源的な魅惑なのだ。
  彼の作品はどこかジョルジュ・メリエスのような古の魔術的な映画作家を思わせる。また小児マヒや義足、義手といったある種の“不具者”が登場するのも初期映画の見世物的な特徴を思い出させるし、この作品は時代設定も1920年前後という映画の黎明期である。像も全体を黄色がかった色味にしてレトロな雰囲気を出している。
  感覚的にも時間的にも現実から離れた世界を描くことで非日常的な体験をさせるという試みはなかなか成功しているということが出来ると思う。

 映画の内容のほうはまあたいしたことはない。登場人物がやたらと多く、人名を言われてもそれが誰かなかなか思い出せないということは大いにあるが、それはどこか昔のミステリー小説のような感覚でもあるし、その複雑さがミステリーとしての難解さにつながり、謎解きの魅力を生み出しもするのだ。
  結末もある程度は予想できるが、少しずつその予想を裏切ることで観客を飽きさせず、物語への興味を保ち続ける。そして、このようにしてあまり物語の没頭させず、適当な距離を保たせることこそがジュネにとっては重要なのだ。物語から少し距離をとって眺める観客はジュネがこだわる細部に目を向ける。それこそがジュネがみなに見せたいものなのである。
  『アメリ』のロマンティシズムから少し揺り戻したこの作品は落としどころとしてはいいと思うのだが、中途半端ともいえる。『アメリ』の反復を期待した観客にはロマンティックさが足りないし、初期のジュネへの回帰を期待した観客には当たり前すぎる。老成したジュネはどこへ行くのか、今後の作品に注目したい。

Database参照
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