愛より強く
2007/3/25
Gegen die Wand
2004年,ドイツ=トルコ,121分
- 監督
- ファティ・アキン
- 脚本
- ファティ・アキン
- 撮影
- ライナー・クラウスマン
- 音楽
- アレクサンダー・ハッケ
- メイシオ・パーカー
- 出演
- ビロル・ユーネル
- シベル・ケキリ
- カトリン・シュトリーベック
- グヴェン・キラック
- メルテム・クンブル
ライブハウスで清掃係をするトルコ系のジャイトは荒れた生活の末、自殺未遂を図り精神病院に入院させられる。そこで出会ったシベルに突然結婚してくれと言われ、彼女が親の束縛から逃れるために結婚したがっていることを知る。最初は渋っていたが結局ジャイトは結婚することにし、2人の生活が始まる…
自身もトルコ系ドイツ人であるファティ・アキンがドイツにおけるトルコ人を描いた恋愛ドラマ。エキゾチックな雰囲気とパンクな精神が混ざり合い独特の味わい。ベルリン映画祭で金熊賞を受賞。
映画はイスタンブールの町と、そこで撮るこの歌を歌うバンドではじまる。すぐに舞台はドイツへと移るが、その冒頭でエキゾチックな空気が生み出され、映画の全体を支配する。
この作品の魅力はリアルさである。ジャイトの無軌道な行動の理由は最初よくわからないし(ただ粗野なだけなようにも見える)、シベルの行動も短絡的過ぎるような気はするけれど、それでも彼らのように極端な行動をとるという心理は理解できるし、それは人間誰もが持つ衝動であるのだと思う。その衝動に駆られて生きることは決して褒められたことではないし、その行動には必ず残酷な結末が待ち受けているはずである。そしてやはり彼らには残酷な結末が待ち受けている…
そこがまず非常にリアルである。彼らの破壊的な衝動が破滅的な行動を導き、彼らは文字どうり破滅してしまう。そして、彼らのその衝動が理解できるだけに、その破滅は哀しくもあり、切なくもあり、しかし同時に自業自得という感慨にもつながる。そのような複雑な感情を抱かせるところにこの映画のうまさとリアリティがあるのだ。
ただ、それだけで終わってしまっては救いようがないので、その破滅からひとつの愛の芽が生まれるように物語は展開して行く。破壊的な衝動は周囲を破壊して行くだけではなく、自分自身も破壊し、それが破滅につながるわけだが、同時に自分自身を破壊して行くことによって自分自身の本質が暴かれても行く。自分探しの旅ではないけれど、本当に自分が求めるもの、それを否応なく突きつけられるのである。この物語においてはそれが愛であり、そしてお互いが運命的な愛をそこに感じるのである。
ハリウッド映画ならばこのままハッピーエンドへと突き進みそうだが、やはりリアリティを重視するとそうはならない。二人は互いを愛し、互いを求めるのだけれど、そう簡単にはいかない。ふたりはともに破壊的な衝動に従って無軌道に行動し、自分を破滅させたのだけれど、その無軌道さには根本的な違いがある。ジャイトの無軌道さはそもそも自分を破壊することを目的にしていたのに対し、シビルは自分を取り囲むものを破壊することを目的にしていたのだ。この違いが一度破滅を迎えた後の二人の行動に違いを生む。ジャイトは全てをはぎ落とされた自分の核から再出発するのに対し、シビルは裸になってしまった自分が存在し売る新たな環境を探すことからはじめるのだ。いうなればジャイトは目標に向かって進んでいるのだが、シビルはさまよっているのであり、2人の方向は微妙に違っている。
哀しいけれど、これがリアリティというものだ。この映画には映画的快楽は存在しないけれど、これも映画である。冬の寒風が身を引き締めるように、このような映画は私たちの精神を引き締める。
ただ邦題は今ひとつ。安っぽいメロドラマかと思った。原題の意味は「壁に対して」という意味のようだ。