ライトスタッフ
2007/5/20
The Right Stuff
1983年,アメリカ,160分
- 監督
- フィリップ・カウフマン
- 原作
- トム・ウルフ
- 脚本
- フィリップ・カウフマン
- 撮影
- キャレブ・デシャネル
- 音楽
- ビル・コンティ
- 出演
- サム・シェパード
- スコット・グレン
- フレッド・ウォード
- エド・ハリス
- デニス・クエイド
- バーバラ・ハーシー
1947年、アメリカ空軍のテストパイロットたちは音速の壁を越えようとして何人もが事故で亡くなっていた。そんな中、“最速の男”イエーガーがついに音速を超える。それから十数年後、ソ連がロケット打ち上げに成功、アメリカは対抗するため有人宇宙飛行の計画を急ぎ、その乗組員としてテストパイロットに白羽の矢が立てられる。
人類初の有人宇宙飛行を目指す“マーキュリー計画”を描いたリアル・ドラマ。オリジナルは193分と長く、日本公開時に160分に再編集された。
宇宙ものというとやはりSFの印象が強く、この映画が作られた80年代はまさにSF映画隆盛の時代でもあったから、映画を舞台にしたリアル・ドラマというのは少し新鮮に感じもする。
基本的には音速の壁を越えたテストパイロットたちの描写と、そこからアメリカ発の宇宙飛行士となっていた人たちの描写を並べることで、新たな世界への挑戦というモノを描いているという印象だ。そして、それを事実に即して淡々と描いて行く。そこには派手なドラマはなく、ドラマティックな対立や確執や事件もない。少し淡々としすぎて、退屈で、あまりに長く感じないこともないが、その淡々としたところにリアリティを感じるというのも確かなところだ。
特に、チャック・イエーガーを主人公としたエピソードが入ることで、“ヒーロー”とされる人々の陰にいた多数の無名のヒーローたちの存在が示唆されるところには説得力がある。
そして、マーキュリー計画についての事実も興味深いものがある。この作品が作られたのは83年だから月面着陸からも20年がたっていて、すでにマーキュリー計画の大部分というのは人々の記憶から薄らいでしまっていただろう。それからさらに20年以上がたった今ならなおさらだ。その時点で、ある種歴史の1ページとなった“宇宙計画”について知るというのはなかなか面白い。彼らの挑戦はまさに命がけであり、国家の威信と自分自身の名誉をかけた戦いであった。そして、そのような歴史の1ページには常にヒーロー以外の人たちもいて、それがまた面白い。
この作品に登場する人々には、どこか『父親たちの星条旗』の人々とどこか共通するものも感じる。この作品のヒーローたちは本当にヒーローたちであり、別に捏造というわけではないが、そのヒーローを取り囲む人々、彼らを利用しようとする人々、彼らをすぐに忘れ去ってしまう大衆などといった構図は非常によく似ている。
今も昔も、人々は忘れやすく、ヒーローが誕生すればそれを利用しようという人々が出てくる。宇宙時代がやってきても、地を這う人間は早々変わらないものだ。
さて、この映画でもうひとつ面白いのは宇宙飛行のシーンだ。宇宙飛行と言っても、ポッドの中で身動き一つ出来ない宇宙飛行士と、小さな窓から見える風景、後はまだまだ未熟なCGを利用したシーンの集合だけれど、表現が限定されているがゆえにこの作品の宇宙飛行のシーンは面白い。特にポッドの宇宙飛行士とその背後に開いた小さな窓からのぞく宇宙の風景には目を見張るものがあり、まさにリアルタイムに初の有人宇宙飛行を覗き込んでいるかのようなスリルもある。
CGによるリアルな宇宙もいいけれど、やはりロマンを感じ、リアリティを感じるのはこんなアナログな宇宙の風景だ。ガガーリンから50年後の現在まで多くの人間が宇宙に飛び、様々な映像を送ってきたけれど、それはどれもアナログなものであり、そのような映像のほうに私たちは親しみを覚えるのかもしれない。
かなり長く、時に退屈な作品ではあるが、今ではなかなか見られない味わいがあっていい。