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あるいは裏切りという名の犬

★★★★-

2007/5/31
36 Quai Des Orfevres
2004年,フランス,110分

監督
オリヴィエ・マルシャル
脚本
オリヴィエ・マルシャル
フランク・マンクーゾ
ジュリアン・ラプノー
撮影
ドゥニ・ルーダン
音楽
アクセル・ルノワール
エルワン・クルモルヴァン
出演
ダニエル・オートゥイユ
ジェラール・ドパルデュー
アンドレ・デュソリエ
ヴァレリア・ゴリノ
ロシュディ・ゼム
ダニエル・デュヴァル
preview
 パリ警視庁のBRI(探索出動班)の捜査官エディの送別会の翌日、現金輸送車の強盗事件がおきる。同一犯による7回目の事件を受け、警視庁長官はBRIの警視レオ・ヴリンクスとBRB(強盗鎮圧班)の警視ドニ・クランのうち、事件を解決したほうを長官にする告げる…
  ダニエル・オートゥイユとジェラール・ドパルデューという名優が競演したとにかく男臭いハードボイルドな犯罪映画。この手の作品が好きな人にはたまらない。
review

 ひとつの犯罪を追う、二つの部署が対立するが、そのリーダー同士はかつての親友、そんないかにもなハードボイルドな犯罪映画である。しかも一方は破天荒な昔かたぎの警察官、もう一人は出世を望む老獪な警察官である。
  物語はBRIの警視レオ(ダニエル・オートゥイユ)を主人公として進む。そして彼は警察の規範を逸脱することはあるが、部下からの信頼は厚く正義感である。だから、観客は必然的に彼の側に立つことになる。しかし、彼はひとつの間違いを犯す。それは、情報屋から強盗犯の情報を得るために、彼の殺人を見逃すのだ。彼はなぜそんなことをしたのか。別に彼は出世を望んでいないのだから、手柄を立てるためにそこまでする必要はない。ただクランが手柄を立てるのを阻止するためにそのようなことをしたのか、それともそこには、「強盗犯を捕まえるためならチンピラの殺し合いには目をつぶろう」という彼独自の“正義”が存在したのか。
  そこが今ひとつ腑に落ちないために、私は全体の展開に今ひとつ入り込めなくなってしまった。
  そして、BRBの警視クラン(ジェラール・ドパルデュー)の行動にも腑に落ちないところがある。それは彼がレオ指揮の作戦の途中で単独行動をとったことだ。彼は自分ひとりで強盗を捕まえることができると思ったのか、それとも単にレオの作戦を失敗させるためにそのような行動をとったのか。可能性としては彼は殺される可能性のほうが大きかったはずだ。にもかかわらず酒をあおってまでやる必要がある行動だったのか。
  これらの行動は、ハードボイルドなおところらしさを通り越して無鉄砲なものに見えるてしまう。だから彼らの行動には今ひとつ説得力がないように思えてしまう。
  そして“正義”について語っていそうでいながら、結局それが何かについて答えは出ない。それぞれが自分なりの正義を胸に自分が信じる行動をとる。たとえばティティがその典型だ。その単純化できない複雑なメッセージはフランス映画のよさであり、評価できる部分ではあるが、この物語は絶望的過ぎるかもしれない。

 しかし、それを補って物語の展開を面白くしていくのがジェラール・ドバルデューの“いやな奴”さ加減である。ドパルデューが演じるクランは本当にいやな奴だ。出世のためには親友を裏切ることも辞さず、そのことを悔いることもしない。その“いやな奴”さ加減をドパルデューは見事に演じきり、観客の感情を逆なですることで破綻しそうな物語を支えるのだ。
  観客が味方につき、感情を没入させるのはダニエル・オートゥイユだが、俳優としての力量を見せたのはドパルデューだろう。この作品はフランスのアカデミー賞とも言えるセザール賞で8部門にノミネートされた(受賞はひとつもしていない)が、助演男優賞はドパルデューではなく、長官を演じたアンドレ・デュソリエだった。
  日本でもフランスでも評判がよかった作品だが、少し私には男臭すぎるし暗すぎた。ハリウッドでリメイクされるらしいが、ハリウッド版くらいのほうが気楽に見れていいのかもしれない。ただ、このドパルデューを凌ぐ存在感を示せる人がいるとは思えないが。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: フランス

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